この作品は、静かな魔法のように心を包み込んでくれる物語です。
主人公・メロウと、彼を取り巻く三人の“求婚王子”たちとの日々は、可愛らしくて、どこか切なくて、読むたびに優しい気持ちになれます。
舞台は学園ですが、単なる恋愛劇にとどまらず、友情や自己受容、そして「本当の幸せとは何か」というテーマが丁寧に描かれています。
登場人物たちのやりとりはどこか演劇のようで、口笛部や社会見学同好会といった独特の設定も物語にリズムと深みを与えています。
特に印象的なのは、メロウが自分の“生まれ”と向き合うくだり。
重くなりすぎず、それでいて誠実に描かれているため、自然と胸に響きます。
「恋愛」だけではなく「優しさ」や「絆」を感じたい人に、ぜひ読んでほしい一作です。
この風がやんだら
きっと必ずかえるから
愛しい人よどうか泣かずに待っていて
夜ごとあなたの夢をみる
夢であなたの声を聞く
素敵な詩です。これは、作中でしばしば描かれる、歌姫ルリアの歌です。
本編は、18年前の宴の席から始まる物語。
主人公メロウがまだ母親のお腹の中にいた頃、三人の父親たちは「この子が生まれたら、自分たちの息子の嫁にしたい」と約束を交わしました。そうして紡がれるのは、後に“幻の姫”と“求婚王子”として語り継がれることになる、メロウと三人の王子たち──グオン、ギルティ、アラオル──の、綿菓子のように柔らかく、甘く、不思議な青春の物語。
序盤は、メロウと三人の求婚王子たちが繰り広げる学園生活を中心に描かれます。社会見学同好会や口笛部、ヒヨコ組といったユニークな固有名詞や、物語の中で時折紡がれる歌の歌詞は、童謡のような優しさと温かみを持ち、読者の心をそっと包み込みます。
さらに、前半の核となるのは、メロウが実は男の子として生まれてきたということ。そして、それに直面しながらもメロウを守ろうと奮闘する三人の求婚王子たちの姿が印象的です。彼らはメロウを取り巻く好奇の目から守ることを誓い、マイノリティや興味本位の視線に対する問題を描きながらも、爽やかで心地よいテンポで物語が進んでいきます。
そして、読み進めると、メロウと3人の求婚王子の間に新たな問題が!?
この作品は、メロウと求婚王子たちの成長を描きつつ、誰もが抱えるアイデンティティや偏見に向き合うヒントを優しく届けてくれる良作だと思います。ストーリーの先がどうなるのか、楽しみに読みたい作品です。