基幹世界06.out of the house

「みんな今日は来てくれてありがとぉー!」

「いやぁ、やっぱり北海道のお客さんは暖かいねえ」

「外はなまら寒いけどね」

「もう4月だっつーのにね。そうそう、昨日の夜とかあまりにも寒いからナギサとラーメン食べに行ったんだけどさあ——」


 理空は、なるべく目立たないようにドアを開けてホールに入る。

 人混みの、やや後方に陣取る。ステージがよく見えて、なおかつ音が聞き取りやすいゾーンだ。


 chaosDIVAの全国ツアー初日は、このライブハウス『ファクトホール』から始まった。

 1000人ほどのキャパで、そこまで大きな会場ではないものの、ホールは客で埋め尽くされていた。チケットが1分も経たずに売り切れていたそうだ。


1曲目オープニング、『叢裂むらさき』だったぞ」


 下から声がした。といがそこにいた。


「え……」


 理空は絶句した。1番好きな曲だ。いつもなら、ライブの後半で演奏することが多い。


「つーかどこ行ってたんだよ、ドリンク取りに行ったと思ったら急に消えるし」

「えーと……ト、トイレに……」

「……会場入る少し前にもトイレ行ってたよな?」

「あ、あの、ちょ、調子が悪くて」


 会場がどっと湧く。ゆるいMCが、会場の笑いを誘っていた。


 問は理空の目をじーっと見る。理空は思わず目を逸らす。


「あのさ」

「な、なんだ」

「何か困ってることがあったら言えよ。私たち、友達だろ?」

「私は——」


 声は、届かなかった。ハイハットが、4回鳴っていた。

 激しく歪んだギターリフがライブハウスを揺らす。新作EPのタイトルトラック『One Hundred Years of Solitude』だ。


 問は、少し眉間に皺を寄せると、前を向いた。

 ライブが終わるまで、言葉を交わすことは無かった。

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