第23話 疑惑

 城に到着するとそこには5台の馬車が並んでいた。その中にひときわ大きく馬も4頭が並ぶ煌びやかな馬車が1台あった。

 「あの大きな馬車が?」

 「姫様の乗っておられる馬車だ。」

 「すでに乗られているのですか?」

 「ああ、そうだ。」

 「すいません。遅くなったようで。僕達が来るのを待たれたのですか?」

 「いや、そうではない。姫様も馬車の中で何やら準備があるらしく早くに乗車されたのだ。」

 「そうなんですね。」


 もしや遅れていて待たせてしまったのかと内心凄く焦った。


 「もう暫く待っていてくれ。こちらの準備が終わっていない。」

 「はい。分かりました。」


 イクトとヤオはメイドに促され手近な部屋へとあんなされた。

 「凄いアルな。待つだけで部屋に案内されるなんて。」

 「そうですね。」


 普通なら馬車の近くで待機しているものである。


 「失礼します。お茶をお持ちしました。」


 メイドが現れテーブルにお茶にお菓子を並べていく。


 「こんな良い対応あり得ないアル。これだけでも受けたかいがあるネ。」


 そう言いながら出されたお菓子を次々に口へと運ぶヤオ。

 そんなヤオを眺めながらイクトは物思いにふけっていた。


 今日はユイナに会えなかった。ユイナにも用事はあるのだろうし、仕方のない事なんだけど……。

 前から当日の朝はどうしても外せない用事があると言っていたんだ。分かっていたのに寂しく思うのは僕の心が狭いのだろうか?


 「どうしたネ?イクト。食べないアルか?これなんてとっても美味しいアルよ。」


 そう言ってヤオが差し出した包みを受け取り中身を口に放り込む。


 「ありがとうございます。美味しいですね。」


 甘いのに何故かしょっぱいや。


 

 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「イクトも来たようね。」

 馬車の中で壁に映し出された4枚の映像。それを見ながらユイナは呟いた。


 「あ!あ、あぁ……」


 メイドに案内され控えの部屋に入って行ったのでその姿が見えなくなった。


 「ユイナ様……魔道具をこのように使うのはさすがに如何なものかと思うのですが……。」


 この馬車の屋根に周りを見通せるようにと遠見の魔道具を4台。4方向に取り付けてある。

 これは馬車の中から外の様子を見れるようにするという案で取り付けられたのだ。


 「何?ちゃんと名目通りの使い方よ?中から外の様子を見ているのだから。」

 「その対象がイクト様に限定されていなければ問題ないのですが。」

 「そうかしら?私の目的に合った使い方よ。」

 「はあ、もう何も言いませんが、程々になさって下さいね。」

 「分かってるわよ。魔道具の内蔵魔力が切れないように注意するわよ。魔法使いが同行してないから魔力を補充するのに私かファナにしか補充出来ないもの。」

 「そうですよ。もしその際にイクト様に見つかれば計画が台無しになるでしょうから。」

 「そうね。イクトに私がユイナ ユータランティアだと打ち明けるにはタイミングが大事だものね。」

 「その事をイクト様が受け入れる事が出来るようにしなければイクト様は身分差に絶望されるかもしれません。」

 「そうよね。それは私も本意ではないわ。」


 そう言うと魔道具を停止させ


 「さあ遠見のチェックは終わったわ。そろそろ出発しましょう。」

 「はい。騎士団に伝えて参ります。」


 そう言うとファナは扉を開け近くの伝令担当の騎士に伝えた。



 イクトとヤオが合流し、いよいよ出発の合図が鳴る。馬車が1台、また1台と進み始めた。基本は馬車で移動し有事の際には外に出て戦う。

 イクト達は2台目の馬車に乗り進む事となっていて馬車の中には鎧を着た屈強な男が5人程乗っていた。


 そして中心となる3台目をユイナの乗る馬車が進む。馬車の御者台にはガストンが乗っており馬の手綱を操っている。


 それを見たイクトは

 「馬の扱いって難しいのかな?」

 「私はやった事ないアル。」

 「ちょっと聞いてみよ。」


 イクトの乗る馬車の御者台へと向かいそこの騎士と話をしだした。



 道中はとても平和で何事もなく旅程を半分まで進めていた。


 「今日はここで野営となる。各自準備しろ!」


 視野の開けた平原の1角に陣取り野営の為のテントを建てたりと騎士達が手際よく動いていく。

 そんな中イクトは仲良くなった騎士に色々と教えて貰いながらその作業を手伝っていた。


 「テントを張るのって難しいですね。」

 「まあ慣れだよ。慣れ。やっている内に慣れるさ。」

 「騎士団でそんなにテントを張る機会なんてあるんですか?」

 「そりゃあもう。野営訓練に魔物を間引く為に討伐にも行く。これでも俺達も結構外に出てるんだぜ?」

 「そうだったんですね。知らなかった。」

 「そりゃそうだ。騎士団の出立をいちいち市民に知らせはしない。知られてないだけで俺達も国の治安を守る為に頑張ってるんだよ。」

 「そうだったんですね。ありがとうございます。」

 「ははっ、そこで素直にそう言えるのがイクトの凄い所だな。」

 「冒険者の中には騎士団を毛嫌いしている奴も多いからな。」

 「それは……すいません。」

 「なに、イクトには関係のない話しさ。」

 「そうさ。お前は騎士団が魔物を倒す事によって冒険者の仕事が減ると思ってるか?」

 「それは……考えた事もありませんね。けれど騎士団の方達がそうしていても魔物の被害は出ます。そうして下さってなければもっと被害が出ているんだと思います。」

 「ああ、その通りさ。俺達がいくら間引いても冒険者の仕事は無くなってないんだ。魔物はいくらでも現れる。」

 「そうとも言いきれないぞ?」

 「何で?」

 「これは姫様から聞いた事のある話しなんだがな、弱い魔物を強い魔物が食べ、強い魔物が死ねばそれをスライム等の弱い魔物がそれを食べ数を増やす。そしてそれを食べて強い魔物が増える。という具合に循環しているそうだ。それをえーと、何だったかな?何とかと言うんだけどな。」

 「何だよそれ?」

 「食物連鎖ですね。」

 「ああ、それそれ!よく知っていたな。イクト。姫様のこの話しは姫様が自分で考えた話しって聞いたと思ってたけど違うんだな。」


 どういう事だろう?僕はこの話しはユイナから聞いた。ユイナは誰に教えて貰ったのだろうか?


 「おーい。食事の準備が出来たぞ!ユイナ様からの差し入れ付きだ!」

 「おお!ヤッター!姫様の料理は本当に旨いからな。お前も期待しておけよ?」

 「はい。楽しみです。」


 イクトにも食事が配給される。黒く硬いパンに干し肉、それと野菜の入ったスープだ。姫様が料理されたのであればこの野菜のスープが姫様の料理なのだろう。


 「もっと凄いのを期待していたアルけど只の野菜スープネ。ちょっと拍子抜けネ。」


 しかしヤオのその感想はそのスープを1口飲んだだけで豹変する。


 「何アルか?こんな美味しいスープ初めてネ。只の野菜スープじゃないアル!イクトも早く食べて見るアルよ。」

 「そんなに美味しいんだ。いただきます。」


 口にいっぱいに広がる様々な野菜の絡み合った複雑な味わいのスープ。


 これは……


 「美味しいアルよね?」

 「え?ああ、はい。とっても美味しいですね。」


 とても美味しい。美味しいのだが


 ……これはユイナの味だ。

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