遠足

       

十三、10年後


「今度、遠足にでも行きましょうか」と、クリスティーナが、夕食の席で皆に告げた。

「神々から連絡が来たのよ、1年に1回の休暇をとっていい、って!町に行っていいらしいわ!!みんなで遠出しましょ!!」と、クリスティーナ。

「期間は2週間、それが今回の休暇期間!よかったわね、みんな!!」と、クリスティーナ。

「お金も支給された。馬車を手配しよう!!」と、カーディフ。

「あら、それは楽しみ」と、冷静なフロゼラ。

「一人、200ルピーまでお小遣いも支給される。町でショッピングするといい」と、レオナール。

「観光地にも行けるんですよね??」と、シャトル。

「俺、あの町がいい」と、ケヴィンが言った。

「ん??どこだい、ケヴィン」と、カーディフが聞いた。

「パラティヌスの町・・・サッカーが有名なところなんだ。俺、前世でもサッカーファンだったし」と、ケヴィン。

「リーグ公式のサッカーボール、欲しいんだ。前、ユニコーンの休暇で100年前に行って買ったのは、もうボロボロだし」と、ケヴィン。

「そうか、なら決定だな!他にも希望はないようだし」と、レオナール。

「毎年、行くわけじゃないんですか??遠足」と、クラリスがクリスティーナにそっと聞く。

「そうじゃないの。たいていは、休暇があるだけ。お金がおりて、遠征が許されるのは、50年に一度なの」と、クリスティーナが言った。クラリスがこのコロニーに来てから、約10年の歳月がたっていた。

 例の戦争は、7年前に終わっていた。一応、帝国側の辛勝だった。だが、悪神シェムハザは、世界侵略を諦めていないようだった。

 コロニーの中から、一人消え、その反対に、また2人ほど、追加されていた。

 クラリスも、一応コロニーには溶け込んでいた。

 夕食後、クリスティーナの部屋で、クラリスは、チェスをしながら、遠足の計画について話し合った。

 遠足は、1か月後の予定だった。

「旦那さんからの手紙、届いたの?」と、クリスティーナ。コロニーの中でも、クラリスとフラウの手紙のやり取りについて知っている者もいたが、基本、神々からは一方通行の連絡なので、ジェハ神以外の神々にバレる心配はなかった。

「はい、クリスティーナさん。私からも、つい2日ほど前、送っておきました」

「いいわねぇ、90年後、会えるといいわね」と、クリスティーナ。

「よければ、その手紙、また読ませてちょうだいよ」と、クリスティーナが言った。

 クラリスがそっと見せる。


「ララへ フラウより


 僕と君が散り散りになってから、約10年となった。結婚記念日のこと、覚えてる??5月17日だったよね。僕は、そこまで覚えてるよ!

 今日も昨日も明日も、君のことばかり考えている。

 眠れないし、君のほほえみが頭にこびりついて離れない。


 僕が必ず君を救って見せるし、また僕と一緒に暮らそう。

 永遠に愛している。


 君の愛の奴隷 フラウより」


 と言う内容だった。

「それで、あなたは何と返事を??」と、クリスティーナ。

「不死鳥さんは3分ぐらいしか待ってくれないから、大急ぎで、簡単に。でも、その内容は、秘密です」と、クラリス。

「あらかじめ用意した手紙をくくりつけるときもあるんですけど」と、クラリス。

「そうなのね」と、クリスティーナがあくびをする。

「遠足、楽しみですね」と、クラリスが話題を変えた。

「・・そうね。何事もないといいけど」と、クリスティーナ。

「計画担当係は、私とレオナールなの。カーディフは、面倒だからもういいって。クラリス、あなたは行きたい観光地とか、ある??これ、一応ガイドブック」と、クリスティーナが駒を進め、「チェックメイト!!」といいながら本を手渡した。

「えーと・・・・ニコラエフスカヤ宝物展示博物館、ってのに行ってみたいです!!宝石が展示してあるんでしょ??気になります」と、クラリス。

「あら、意外とミーハーね」と、クリスティーナ。

「私は、一度でいいから、リラの西部を走る、アムール鉄道に乗ってみたいわ!!観光列車なんだけど、景色が絶景らしいの!どう?あなたも、クラリス」

「ええ、とっても素敵です、クリスティーナさん!」

 クラリスたちのコロニー第8はリラ西部にあった。

 二人は、ガイドブック片手に、わきあいあいと話し合った。チェスは、二人とも勝ったり負けたりした。

 だが、たいていクリスティーナが、こうしたゲーム関係には強かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る