Ground Zero / Rendezvous Point

 翼が生えてしまった女の子は、羽毛より軽くなって、吹かれれば飛んでしまう。もう私も、地上には戻れない。


 涙はきっと、今日の雨になって降り注ぐだろう。

 声はきっと、明日の雷になって鳴り響くだろう。


 それでも、空は平気で、青白い。


 

 見下ろした大海原には、煙が点々と立ち上る。灰色は船の亡骸、炎は散った者たちの証だろう。男の子はみんな、燃えてしまった。


 風はそっと、悠久の過去を灰で包むだろう。

 波はずっと、永劫の未来を泡で揺らすだろう。


 それでも、海は無慈悲に、青深い。


 

 雲の上まで来ると、いよいよ何もない。

 ここは、寒い。涙は凍り、声は震える。

 もう、誰もいない。

 嗚呼、あなたさえいてくれれば。


 

 突然、雲より下──地上が、太陽より眩しく光った。雲海に大穴が空き、その真ん中を、真っ黒いきのこ雲が高く高く伸びていった。

 凍えた翼が急に焼け始めた。焦げ付いた羽は、風を掴めなくなった。


 墜ちるのは陸だろうか、海だろうか。

 どちらでもいい。空なんかよりは、ずっと。



 遠く、ばばばっと、恐ろしく、懐かしい羽音。それは近づいていた。

 目を開くと、日の丸を抱いた〝零〟が──そのコックピットから、あなたが手を差し伸べていた。


「──掴まれッ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る