心地

貴方にとって心地の良い気候は、天気は、気温はどんなものですか?

人それぞれきっと違う情景を思い浮かべるだろう。


私は、夏の入口、春の終わりが好きだ。

それも、昼ではなくて夜。この季節だけは散歩をしたくなる。

春でも夏でもないこの季節の、なんとも言えない気温と風の中、何の変哲もない道端のベンチでひたすらぼんやりと時間を浪費したい。


彼氏は、そんな私の趣味に付き合ってくれる非常に優しい人だ。

あまり口数が多い方ではないけれど、私が好きそうな天気の日は外でゆっくりする時間を取ってくれる。どんなデートの予定を組んでいても、帰る直前の少しの時間でも。外のベンチに座ってただ話すだけの時間を用意してくれる。

それも、過度に話すのではなくて街ゆく人達の気になったことをたまに話す程度で、基本はただぼんやりと二人で景色を眺めるだけ。

その時間を何となく隣で過ごせるこの人だから、私はこの人が好きだ。


何の変哲もない休みの日。私の好きな天候の日だった。会う約束をしていなかったのに、彼氏が思い浮かんで、晩御飯を食べに行く約束をした。つい先々週も会ったばかりだけど、今日のこの天気は今日しかないのだ。

私はこの日を彼と過ごさないと後悔しただろう。

待ち合わせは、2人がよく会う中間の駅で。

「紗良」

「やあやあ、ありがとう」

「どういたしまして、何が食べたい?」

「空が見れるところならなんでも」

「難しいこと言うね」

彼は苦笑いでベンチを指さした。

「とりあえずあそこに座って考えようか」

「いいね」

そうして座ったベンチで私もお店を探していたが、どうしても景色が気になって探す手が止まる。

あ、あのベビーカーの赤ちゃん可愛い

あの人の服可愛いな〜

ぼんやり見ている中、手を繋いで歩く男女が目に止まった。

あのカップル仲良さそう、いいな

「紗良?」

「はい!」

名前を呼ばれて勢いよく振り返る。

「ここどうかな」

見せられた画面を見れば、路面の居酒屋が表示されていた。

「凄くいい!決まり!」

「よし、じゃあこっち」

立ち上がって進み始める彼のちょっと後ろを歩く。少々の葛藤の末、そっと彼の手を握る。

「どうしたの?」

「ん〜、なんとなく」

さっき手を繋いで歩いていたカップルを思い浮かべながら答える。いつも手を繋ぐのは彼からだから緊張したけど。

たまにはこんな日も、悪くない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日の夢明日の夢 れい @waiter-rei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る