SS4 大事な家族
しばらくすると直樹さんたちがお風呂から出てきた。
よほど露天風呂がよかったのか、庭にまで出歩くほど楽しんでいて俺は嬉しくなった。
ただ、この辺って夕方になると風が吹くから、風邪を引かなければいいけどね。
「これはなに?」
シルはテーブルに置かれた肉じゃがに興味津々だ。
たしかに和食が我が家に出てくることは少ないからね。
「うさぎの肉を使った肉じゃがだよ」
まさかうさぎの肉を使って肉じゃがを作るとは思いもしなかった。
牛島さんもお祖母さんに作り方を聞いていたぐらいだ。
「ほら、早く座るわよ!」
お祖母さんの声に直樹さんたちは急いで集まってきた。
直樹さんと目が合うと、どこか恥ずかしそうにしている。
きっと家でもこんな感じに過ごしているのだろう。
それだけリラックスできているって民泊としては良いことだ。
いつも民泊の時は外で食べていたが、今日は椅子を並べてリビングで食べる予定だ。
もちろんケトとポテトも座っている。
「犬と猫が座ってるな……」
そんなケトとポテトを見て、牛島さんはボソッと呟いた。
「じゃあ、いただきましょうか」
みんなが揃ったところで手を合わせる。
「「「いただきます!」」」
ケトは早くしてくれと言わんばかりに俺のお腹を突いてくる。
直樹さんも同じでドリちゃんやポテトの分をお皿に載せていた。
お皿に肉じゃがや天ぷらを載せていくと、ケトは嬉しそうにフォークを使い口に運んだ。
「うみゃ! うみゃ!」
つい口から言葉が発してしまうほどだ。
お祖父さんやポテトには話せることがバレているけど、ここには牛島さんがいる。
「ケト、静かにね」
「……うみゃ?」
きっといつものように〝呪うよ?〟って言いたかったのだろう。
だが、あまりの肉じゃがの美味しさに、言葉を失っていた。
「ケトちゃんはお利口ね」
「うちのポテトは手掴みで食べるからな……」
『アチアチ……』
視線がポテトに集まるが、全く気にしていないのか肉じゃがを手に持って食べていた。
さすがに出来立ての肉じゃがを素手で持ったら熱いよね。
「猫と犬が椅子に座って肉じゃがを食べていることが不思議なんだけどな……」
ボソッと呟く牛島さんに視線が集まる。
「「我が家ではこれが普通だからね……」」
直樹さんと俺の声が重なりあう。
本当にこれが当たり前だから、おかしいと言われても逆にどこがおかしいのかはわからない。
「そうか……。まぁ、そういうこともあるよな。我が家の牛と鶏も変わってるからな」
「世の中変わったことばかりですからね」
「そうですよね……」
我が家には座敷わらしと猫又がいるからね。
どうやら俺たちは似たもの同士なんだろう。
牛島さんはその後も特に気にすることはなく、肉じゃがを食べていた。
「うまっ!? 兄ちゃんも早く食べてみろ」
ケトの分を取り分けしたから、俺も食べてみよう。
にんじんとたまねぎの間に、ほろりと崩れかけたうさぎ肉が顔を出していた。
言われた通りに手を伸ばし、一口食べてみる。
「うまっ……」
言葉が出なくなるってこういうことを言うのだろう。
うさぎの肉の繊維は驚くほど細かく、煮汁をたっぷり吸っているのがわかる。
いつも食べているものとは全く別物のように感じる。
噛むと最初はしっかりとした歯応えがあり、次の瞬間、静かにほどけるように崩れた。
「脂は控えめなのに肉の旨味とじゃがいもの甘さが溶け合った優しい味がします」
「ふふふ、喜んでくれてよかったわ」
うさぎの肉で肉じゃがを一度も作ったことがないと言っていたが、こんなに美味しくできたのはやはりスーパーお祖母さんだからだろう。
まるで本当の家族になったかのような、どこか懐かしい家庭の味を噛みしめていた。
「思ったよりも上品だな」
「あなたと違ってね?」
「わしだって上品だぞ!」
お祖母さんの言葉にお祖父さんが反応する。
少し険悪な空気感を漂わせているが、このままで大丈夫なんだろうか。
俺は直樹さんを見つめるが、やっぱり目を合わせようとしない。
「裸で庭に出る人のどこが上品なのよ」
「ぐふっ!?」
なぜが隣にいた直樹さんが咽せていた。
俺は急いでお茶を渡すと、急いで喉に引っかかって食べ物を流すかのようにお茶を飲んでいる。
そんなに焦ることなんだろうか。
「祖母ちゃん見てたの!?」
「あなたたちがすることなんて想像がついているわよ」
さすがスーパーお祖母さんだね。
俺にはそういう人がいないからわからないや。
「まぁ……そういうこともあるよな?」
お祖父さんは俺に助けを求めてきたが、さすがに俺でも裸で庭に出たことはない。
ただ、お客様を否定するのもいけないしな……。
「えぇ、そういう日もきっとありますよ」
俺は特に気にすることなく、肉じゃがを口に運ぶ。
やっぱりじゃがいもにもしっかり味が染み込んでいて美味しい。
うさぎの肉じゃがをこれから我が家の献立に入れてもいいかもしれない。
まぁ、作るのは牛島さんなんだけどね。
天ぷらも衣は薄いのにサクサクしているし、塩を少しつけるだけで野菜の味がふわっと口の中に広がる。
油っこさは残らず、気づけばもう一つと自然に手が伸びてしまう。
天つゆなんてなくても、いくらでも食べられそうだ。
「うちのお祖父さんと孫が迷惑をかけてすまないね」
「いえいえ、特に気にしていないので大丈夫ですよ。それにしてもどの料理も美味しいですね」
こんなに美味しい料理が食べられるなんて、毎日が幸せな家族になんだろう。
少しだけ羨ましく感じてしまう。
「兄ちゃん、俺の前でそんなにお祖母さんを褒めなくてもいいだろう?」
俺たちは驚いて大きく目を見開いた。
「えっ!? 牛島さんの料理ももちろん美味しいですよ!」
「うっしーのも美味しいよ!」
牛島さんがそんなことを言うなんて珍しい。
俺だけではなく、シルやケトもフォローするように頷いている。
すると、チラチラと俺たちの方を見ていた島さんはニヤリと笑った。
「ははは、冗談だぞ。久しぶりに和食を食べるのもいいな」
「はぁー、俺たちには牛島さんがいないと死んじゃいますからね」
「相変わらず大袈裟だな」
きっと牛島さんは何も思っていないだろう。
だけど、我が家には牛島さんがいなければ本当に栄養不足で死ぬかもしれないからね。
そう思うと俺にも大事な家族がいてよかった。
命に関わるって大事な家族と同じようなものだもんね。
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
【あとがき】
書籍が発売した一カ月が経ちました。
SSはこれぐらいにして、本編書いていきます笑
これからもよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます