Day11 錬金術
こんなものお金になるんですかって尋ねたら、大丈夫お金になるっていうから。
しょうがないからあたし、あるだけ持たせました。
だって、おあしがなかったら冬も越せやしないでしょう。ふとんも火鉢も質屋から請け出せないんですから、あたしはもう、必死でした。
女ひとりで赤んぼ抱えて、産後の肥立ちもよくはないのに、真冬に隙間だらけの長屋で薄っぺらの服着て、ろくな食べ物もなくって、何日も過ごせるでしょうか。もう心中するよりほかないとなったら、父の位牌も母の位牌も死んだ子どもの位牌も、手放すよりほかないじゃありませんか。それにふつうなら売ったって一銭にもならないものを、今だけ大金にしてくれるっていうんだから。
ええ、それはほんとうで、ちゃんとお金になりました。それでその冬はなんとか越すことができたんですけど、そうやって守ったはずの子どもは次の次の年に水路に落ちて死んじまって。さぁ。
あたしがやったことって何だったんでしょうか。
やっぱり位牌を売ったりなんかしたから、ばちが当たったんでしょうか。でも、だったらあたしはあのとき、どうしたらよかったんでしょう。だって、位牌拝んで冬が越せるじゃなし。
でも、なんでそんなもの集めていたんでしょう。位牌だけじゃなくて、人が首括った梁の木材だとか、死人を寝かせてた布団だとか、そういうものも買っていったって聞きました。
そんなものがお金になるだなんて、おかしな話じゃありませんか。
そういうことがあったので、今はひとつだけ位牌を持っています。白木の小さい、水路に落ちて死んだ子どものやつだけ。
これも同じように売ったら、みんなのところへ行くでしょうか。あたしのおとっつあんとおっかさんと、この子のきょうだいが待ってるところへ行くなら、もうお金なんかいらないから、持っていってやってくださいって、
あたし、
お願いした方がいいんでしょうか。
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