引きこもりのダウナー幼馴染が美少女すぎる件

八雲玲夜

第1話

引きこもりたい。

誰しも一度は思ったことのある平凡な考え。もちろん俺も思ったことはある。

ただ、高校生である以上は勉強第1に考えているからか、1度思っても少しすればそんなこと忘れてゲームをしたり勉強したりしている。


ご飯食べてお風呂入って、布団潜って少しスマホをいじって寝る。何ら変わりのない生活を俺――平凡日陰男子の狼谷湊かみやみなとは送っている。


学校では目立たず生活するというなんとも悲しきモットーに従い、のびのびとクラスの日陰に隠れて生活している。


そして、高校に進学し今日は待ちに待った入学式である。


校長先生のやけに長ったらしい話を横耳に聴きながらクラスメイトとなる生徒を見るに普通のクラスになりそうだけれど、明らかにカーストトップに立ちそうな人も何人か見ただけで判断できてしまう。


「えーと、理事長の成瀬陽菜なるせひなです。まずは新入生の皆さんようこそ龍水学園へ。そして進級生のみんなは今年もよろしく。ってことで私が言いたいのは、程よく勉強に勤しん《いそしん》で、遊ぶ時は全力で遊んで欲しい。1年間勉強に費やすのもありだが、時に遊ぶのも忘れないように。以上」


なんか軽い挨拶だったなぁとか思いつつ、その後は何事もなく入学式と始業式が終わった。


各クラスに戻ってから担任の先生の軽めな自己紹介が終わってから、連絡事項の確認をしてその日は帰宅することになった。

なんとも慌ただしい1日だった。


帰宅前、教室内では中学時代の友達と楽しそうに話す人や、新しく友達を作ろうと見知らぬ人に話しかけるコミュ力お化けの人などと様々だけど、俺はそんなことが出来るほどの能力を持ち合わせていないのでね、颯爽と帰らせてもらいます。


今年もぼっちになるなとか思いつつ、家に向かっていると見知った顔の人と出くわした。


「あ、湊くん。こんにちは」


紗良さらさん、こんにちは」


「今日入学式だっけ?」


「はい。さっき終わって帰るところです」


「そっか。あ、じゃあさ、ウチの引きこもり妹の相手してやってくんない? あいつまた引きこもって寝てるからさ」


「入学式に出ずに寝てるんですかあいつは……」


「そ、引っ張り出そうとしたら追い出されちゃったからさ」


「はぁ……」


この人は俺の幼馴染、一ノ瀬凪いちのせなぎの姉である一ノ瀬紗良さん。

現在は大学二年生でIT関連の学部を専門としているらしい。

見るからに美人さんで大学でも男子から人気があるのだとか。


ただ、異性に対しての関心が無さすぎて告白されても全部断っているのだとか。

恋愛に時間を使うくらいなら友達と遊びに出かけている方が楽しいとか言い、休みの日は友達を連れて遠出している。


「今日は出かけてないんですね」


「まぁね。大学も一応は春休みだし、友達も私みたく毎日暇ってわけでもないからね。バイトとか、彼氏とデートとかしてるし」


「紗良さんも彼氏作ればいいのに」


「いらないんだよねぇ……デートとかどんな服着て行けばいいのか分からないし、男の人にエスコートされたい! キランッみたいな感じのは私には似合わないし」


「あはは、紗良さんらしいです」


「それに、親二人が仕事でいないからさ。凪の世話も必要なんだよ」


「凪もいい加減自立してもいいと思いますけどね」


「言っても聞かないからあのバカ妹は」


俺の幼馴染である凪は超が付くほどの引きこもりである。

しかもかなりのわがままで姉の紗良さんとよく言い合いをしている。ただ、お互いにタイプが違うから仕方がないと思うが、大体紗良さんが家を追い出される羽目になっている。


「さ、入って」


「お邪魔します」


しばらく歩いていると目的の一ノ瀬家に到着した。

妙に大きめな家だが、二階建てというのは周辺の家とはなんら変わりない。

もとは旅館として建っていて、旅館が潰れたところを凪の両親が買い、今は立派過ぎる一軒家になっている。


「お茶とか用意しておくから凪のやつ、部屋から引っ張り出してきて」


「分かりました」


俺は荷物をリビングに置いて二階へと上がる。

2階はそれぞれの自室になっていて、凪の部屋は廊下の1番奥。本当に引きこもりのためだけにある作りみたくなっている。


――コンコン


「凪、起きてるか?」


凪は1日を大体寝て過ごしている。たまに起きている時もあるが、大抵はゲームをしているか漫画を読んでいるかの2択だ。


今日はというと――


「起きてるよ……てかまた来たんだ……」


どうやら起きていたみたいだけれど、寝癖を見るにさっき起きたところなのだろう。


「入学式サボっておいて昼まで寝てたのかよ」


「サボってない……正当な欠席だから」


「引きこもりだからサボりが許されるのであれば、世の中の全高校生は喜んでサボるだろうよ」


「それはダメでしょ……」


「お前はいいのかよ!」


「湊も知ってるでしょ。私が引きこもりになった理由……」


「……」


そう言われてしまうと何も言い返せなくなってしまう。


もともと凪は今と違って明るく元気いっぱいな女の子だった。今の凪からは想像もできないほどのキャラだったのを今でも覚えている。


「まだトラウマ残ってるのか……」


「うん……そう簡単に克服できるもんじゃないよ……」


中学二年生――凪が引きこもりで口数が減る転機になった原因である時だ。


当時の凪はその明るさと、中学生ながらも目を惹かれるほどの容姿をしていた。

まるで漫画から出来た二次元のキャラクターではないのかと疑うほどの美少女で、それに加えて明るく誰にでも気さくに話すその姿はクラスだけでなく学校中で有名になるほどだった。



ただ、それが原因となってしまった――


――中学時代。


「一ノ瀬さんさぁ……調子に乗ってんの?」


「なんのこと……?」


「とぼけないで! 雅也まさやくんのこと誘ってるんでしょ!」


唐突に告げられた言いがかり。

凪には何一つとして理解が出来ないもので、頭の中が混乱してしまう。


そうやって詰めて来ていたのは凪のクラスの女子数名。

自称一軍女子たちで、クラスメイトの鹿野雅也かのまさやという学校内では一番イケメン男子と言われた男と仲良さげに話しているのを見た彼女らは、その行動が雅也に好意を持たせようとしているという訳の分からない理由を付けてきたのが事の発端だった。


当然凪はそんなことをしていない。

雅也に対してもそんな関係を望んではいない。


「そ、そんなつもりはないよ……」


「はぁ? じゃあ何で話しかけんの? わざと可愛らしく振舞って雅也くんに好意持たせようとしているだけじゃない」


「そんなわけないじゃ――」


「うざいんだよ! そうやっていい子ぶって私はみんなと仲良くなりたいって言って本当は男子から好かれたいだけの勘違い女!」


「……っ!」


「一ノ瀬さん、もう雅也くんとは仲良くしないでね。それとあなたのこと好きな女子なんていないから」


「ほんとそれな。こんなやつのこと好きになる人なんている訳ないわ。顔だけいいやつなんて」


「……」


そんな罵声と、首謀者の女子が泣いてしまったことで凪は何も言い返せず、俯くだけだった。

自分にはそんなつもり一切なかったのに、周りから見ればそう思われるような行動を取ってしまっていたのだと、心の中で卑下してしまった。それが凪のこれまでを否定するかのように強く心を抉った。


それからの凪は明るくいることをやめてしまう。

まともに笑う事すらもできなくなってしっまった。

一度いじめを受けて、それがたった一言二言であっても当時の凪には辛いものだった。周りがそういう目で自分を見ていると思ってしまう。


誰かに心配されることすらも恐れた凪は家に籠ることを決めた。

俺には「心配かけてごめん……」の一言だけ伝えてそれ以上のことは何も言わなかった。


俺が、凪がいじめられていたと知ったのはそれからしばらくして雅也から直接聞いた。

あの一件のあと、雅也は凪がクラスで孤立しているのを疑問に思い、クラスメイトに事情を聴きまわわっていた時に凪が女子からいじめを受けていたのを知った。


そして幼馴染である俺に伝えねばと思い、知らせてくれたのが一連の流れだ。

ただ、それが分かったところで俺にはどうすることもできず、凪は引きこもったまま。


そしてそのまま卒業を迎えてしまった。

あいにく俺や凪が通っていた中学は、不登校になってしまった生徒のために救済措置として課題を家でやり、担任へ渡せば単位は貰うことができる。

もちろん成績に影響はない。だからこそ凪も俺と同じ高校に在籍できるようになったわけだ。


学校側で凪がいじめを受けていたという報告は受けていたそうだけど、当の本人が大事にしたくないのと、トラウマを抱えてしまっているために何もできずにいると俺には伝えられた。


――そして今に至る。


「お前、高校でも引きこもる気か?」


「そうするしかないもん……それに私が学校に居たら人が寄ってきちゃうし」


「お前は人を寄せ付ける罠か」


「そうだよ。私は一定の人を寄せ付けるトラップだから」


「まぁ凪は傍から見ても美人だから無理もないのか」


「……! うっさいバカ……」


「えぇ……」


とまぁ今は前よりも柔らかくなった方だが、それでも口数は少ない方だ。

昔は一人でずっと喋ってて、漫画に置き換えたら一人で半ページは使えそうな文量をしていた。


そして時折見せるツンデレもそれなりに増えた。


「てか、せっかく来たなら久しぶりに甘やかして」


「あーそういえば受験で全然顔合わせてなかったしな」


「そ、だから今すぐ私を甘やかして」


「はいはい」


凪が引きこもるようになってからは凪は定期的に俺に甘やかされるのが好きになった。というのも、凪の両親が共働きであり家にいないことが多く、紗良さんもいつも家にいるとは限らず、基本一人で家にいることが多い。


その中で唯一頼れるのが俺だとのこと。


「ん……あったかい……」


ぎこちなく甘えてくる凪はどことなく幼子のような感覚がある。

幼馴染である以上、同い年なのに今の凪は妹のように見えてしまう。ただ、これを言うと凪は拗ねてしまうから言わないのだけれど。


「湊も湊だよ……こんな私なんかに構って……家に来て……」


「そうかな? 俺は凪のためにしてるんだけどな」


「別にお願いしてない……」


「うん、されてないね」


「……うっさい、湊のバカ……」


とまぁこんな感じで凪はツンデレだ。

ついでにダウナーなのではないかと思ってしまうくらいには自嘲気味に卑下している。


ただ、それは過去のトラウマから来ているものであってほしいという俺が個人的に思っていることで、凪も自分に自信を持てていないだけだろう。

いずれ引きこもりから解放されるときが来るのを願うしかないのだけど……


「……」


「え、寝た???」


まさかの抱き着いたまま寝てしまった。

こいつはもはや猫だ。人懐っこい猫だ。


そのあとは様子を見に来た紗良さんに呆れられて二人そろってリビングに連行されましたとさ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

お疲れ様です。

最新作書いてみました。

引きこもりの幼馴染がダウナー系女子だったら? っていうのを題材に描いてみたんですけど、かなりスムーズに書けた気がします。

これまで学園系でのストーリーを展開していましたが、今回はテイストを変えて書いてみることにしました。

ただ、ダウナー系ってどんな感じなのかうろ覚えなので、ダウナーを勉強しつつ連載していきます。

あとがきでした。またね~

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