Day.14自分の分が書けたら、あの子に教えなくてはいけないのだ

 その日は陶子との約束がなかったので授業が終わったあと図書館に向かった。

 昨日出た宿題の調べたいことがあるのだ。


「三沢伊織くん?」


「誰」


 図書館の入り口でよく通る声でフルネームで呼ばれた。

 振り向いた先には知らない男が三人。


「覚えてない? ちょっと前に学食で顔合わせたと思うんだけど」


 真ん中の男(Aとしよう)が半笑いでこちらを見上げる。

 けどちっとも見覚えがない。マジで誰。つーか名乗れよ。


「????」


「そっか、残念。ちょっと話聞きたいんだけどいい?」


「やだ。宿題あるし、自分の分が終わったら人にも教えないといけないし」


「園生さん?」


 Aが口の端を歪めた。なかなか綺麗な顔なのに、悔しそうな表情が勿体無い。

 悔しそう?

 あー、はいはい、そういうこと。


「さあ?」


 全てが面倒になったので三人組を避けて図書館に入ろうとすると腕を掴まれた。

 くっそ、超めんどくさい。

 バカじゃん。

 女にフラれたからって女の連れにちょっかいかけるとか、しかも一人で行く勇気もなくて友達連れて?

 恥ずかしくなんだろうか?


「てめ」


 しまった、全部口に出ていたらしい。

 顔を真っ赤にしたAと、ちょっと笑いそうな右の男(こっちがBだ)と怒っていいのかわからないような困った顔の左の男(こっちはC)がこちらを見上げる。


「俺に絡んで好きな子落とせるってマジで思ってる?」


「おま、お前が邪魔なんだよ!」


「え、俺がいなきゃ全てがうまくいくと思ってんの? ラスボスかよ。マジでそう思ってるなら普通に俺がいないタイミングで声かければいいじゃん。一回手紙捨てられたくらいで諦めちゃったの?」


 ここでBとCが吹き出してしまった。


「もうやめとこうぜ。ごめんね、ミサワクン」


「こいつ結構園生さんにアタックしてたんだよ。でもぜーんぶスルーされちゃって、やぶれかぶれで園生さんの彼氏に物申す! つって」


「物申すて。サムライかよ」


 思わず突っ込むとBとCはまたゲラゲラ笑った。


「園生さん、笑っちゃうくらいこいつに興味ないから、その園生さんがベタ惚れの男ってどんなんか見にきたってのもあるんだけどね。ほら、三沢くんに謝ろ」


 マジで意味わからんな。

 Aは不貞腐れたようにそっぽを向いた。ガキかよ。


「無理に謝んなくていいよ。もう俺に構わないでくれたらそれでいいから。じゃあね」


 謝る気のないヤツの謝罪を待っていても仕方ない。

 陶子がこいつを全く相手にしなかったというのを聞いて気分がいいこともあって俺はさっさとその場を後にした。


「バカだねお前」


「ごめん」


「謝る相手が違うっしょ」


「園生さんは諦めなって。合コンしようぜ」


 そんな声が聞こえたので、たぶんA はもう絡んでこないだろう。

 やっと図書館に入って目当ての本を探す。

 図書館の二階にある自習室から入り口を見ると、三人組はいなくなっていた。


 久しぶりだなーとレポートを書きながら思う。

 中学の時に陶子に勉強を教え始めてから、こんなことはしょっちゅうだった。

 ヒョロガリだったから昔はもっと酷かったけど、高校で剣道部に入って鍛えてからは絡まれることがどんどん減った。

 まあ俺が鍛えるのと同じように陶子が綺麗になっていくから絡まれるのはなくなんないんだけどね。

 昨日のデートの陶子もそりゃあ可愛かった。

 露出をやめてセックスの回数を減らしてくれるともっと可愛い。

 まー無理だな。

 半笑いになりつつ資料のページをめくった。 

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