Day.12チョコが溶けたあとの口の中が苦い
「うふふふふ〜〜」
「……オトはずいぶんご機嫌だね」
「そういう初ちゃんは蝋人形みたいに真っ白ね」
ニコニコと笑顔を振り撒くオトこと園生陶子は機嫌よく化粧を治していた。
いつもかわいい格好をしているオトだけど、今日は一段と輝いているように見える。
ふわふわの花柄のチュニックにタイトなデニムのスキニー、ヒールの高いビジューのたくさんついたキラキラのサンダル。
髪もふわふわに膨らませてカチューシャでまとめている。
妖精かな。
「気合い入った格好してる」
「うん。今日は伊織とデートだから。全力投球」
「ラブラブ〜〜」
「そういう初ちゃんはかわいい格好して彼氏のナントカくんとデートしないの?」
「んー……、ちょっと気まずい。あたしが拒否っちゃったから」
「まだ話せてないの?」
「うん」
オトはバチっとまつ毛を上に向けて、こっちを見る。
ゆるふわバチバチの妖精みたいな美女……どっちかっていうと美少女になった。
こんな美少女に迫られたら多分どんな男もころっといくに違いない。
多分コウも。
そうしてもらえるとあたしは楽かもだけど、この美少女は三沢くん以外眼中にないんだよねえ。
三沢くんのことはよく知らない。
高校はオトと共に一緒だったけど、同じクラスになったことはないし、オトが当時から三沢くんベッタリでちょっと話せる状態じゃなかった。
多分三沢くんの方もオト以外の女子に興味はなさそうで、なんならオト以外の人間誰にも興味なさそうで、
(あー、この二人、似たもの同士なんだ)
って、高校一年の一学期が終わる前に、あたしやその他オトと親しい女子は気づいていたのだ。
その後四年ほど経ったけど、相変わらずオトは三沢くんべったりだし、三沢くんもなにくれとなくオトの世話を焼いている。
たぶんさっきオトが食べていたお弁当も三沢くんが作ったものなんだろう。
なんて、他人事だとあれこれ呑気に考えていられるんだけどなあ。
「初ちゃん、どうすんのよ」
「たぶん、最終的には別れるしかないのはわかってるよ」
「そこに至るまでに、ちゃんと会話しないといけないことは?」
「わかってる、つもりなんだけど」
「つもり、じゃあねえ」
オトは呆れたようにため息を吐いた。
「はい、これ」
「ありがと」
オトがくれたのはチョコレートだった。
ミントが入ってて、スッキリした味だ。
「おいしい。どしたのこれ」
「伊織がくれた。なんかの授業で近くの席の女子がくれたんだって。でも伊織はミントチョコ苦手だから」
……それ、あたしがもらっていいヤツだった?
改めてパッケージを見るとすんごいかわいくて、プレゼントフォーユー的な、私の気持ちをプレゼント的なことが書いてある。
「オトはこれ食べた?」
「うん。おいしかったよ。これデパ地下で売ってる人気のチョコだよね」
はい、オトさんわかってて食べてますね!!
すごいな、ほんと。
もしかして三沢くんもわかっててオトに回した?
「オト、これ」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
それが出来るくらい、オトと三沢くんは互いのことを理解しているのだ。
じゃあ、あたしは。
全然まったく彼のことを知らないし、彼もあたしのことを知らない。
なぜか。あたしがはなしていないからだ。
「オト」
「うん」
「ありがと。ちゃんとする」
「うん」
ニコッと向けられた笑顔は、女でしかも恋愛を受け入れられないあたしすらときめいちゃうような可愛らしさだった。
あーあ。あたしも、そんな笑顔をコウに向けられる女だったらよかったのに。
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