Day.10だから泣かないでよ
夕方にバケツをひっくり返したような雨が降っていたけど、伊織は濡れなかっただろうか。
そんな心配をしながらカーテンを閉めているとチャイムが鳴った。
「はーい。あれ伊織。どしたの」
ドアの外には学校帰りの伊織がエコバッグを下げて立っていた。
濡れている様子はないし、昼に別れたときより機嫌の良さそうな顔に見える。
伊織が来るならもっとえっちな服にしとけばよかった。
ふっつーのブラタンクとショーパンでエロすのかけらもない。
「陶子、飯食わせて。アイスやるから」
「いいよ。お風呂は?」
「……入る」
「さっき私が入ったからまだあったかいと思うんだよね」
エコバッグを受け取って風呂に向かう伊織を見送った。
「お腹空いてないの?」
伊織のエコバッグには小さなお弁当が一つと私の好きなアイスが入っていた。
「うん。今日はそんなに」
うちに置いてある自分のお箸でもしょもしょと食べながら伊織は頷く。
変なの。
というか2日に一回の約束なのにそれ以外でうちに来ることが、もう変だ。
「お茶、ありがと」
「いーえ。そもそもそれ、伊織が作り置きしてるお茶じゃん」
「そうだったわ」
やっと伊織はちょっと笑った。
「疲れた? 寝る? エッチする?」
「ん、歯磨いてくる」
てことは致すにせよ致さないにせよ、ベッドには行くんだろう。
私もアイスのカップを片付けて歯を磨き、先にベッドに入って伊織を待ち構える。
「おいで」
寝っ転がって腕を広げると、意外とすんなり伊織は胸の中に納まった。
乾かしたばかりのふわふわした髪が顔に当たってくすぐったい。
「好きよ、伊織」
「うん、俺も、愛してる」
いつものやりとりだ。
いつもの、中学の時からの嘘偽りない、伊織への気持ち。
「そういえば今日ね」
たわいない話を始める。
伊織はうんうんと静かに相槌だけを打ちながら聞いている。
「そだ。初って知ってたっけ。その子が彼氏としたくなくて悩んでてね」
思いつきで初とその彼氏のナントカくんのことを話す。
名前、なんだっけな。
「トッキー?」
いきなり伊織が声を上げた。
「んー? 違う、確かトッキーくんは初と彼氏くんの共通のお友達じゃなかったかな。落ち着いた、ちょっとがっしりした感じの男の子だよね」
「詳しいんだ」
「詳しいのレベルが低すぎるでしょ。本名も知らないのに」
私が笑うと、伊織はぎゅっとしがみついてくる。
ああ、そうか。
伊織は私がラブレターもらったのも、他の男の子の話をするのも面白くないんだ。
「ねえ伊織。明日、帰りにデートしようねえ。かわいい服用意してあるから」
「陶子のデートってそれただの露出じゃん」
「伊織とだけできる楽しいお出かけだよ。オフショルでねえ超ミニのワンピースなの。本当はチュニックなのかも。ふわふわの花柄だから楽しみにしててね。めちゃくちゃエッチなパンツも用意したし」
「陶子」
「うん」
伊織のふわふわの髪を撫でる。
名前だけ呼んで黙り込むかわいいこの人は私だけのものなのだ。
ねえ伊織。そんな不安そうな声で私を呼ばないで。
そんな杞憂は私がいくらでも散らすから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます