第2話 指先

 自分は自分の手のフォルムが好きじゃない。大きすぎず、ごつすぎず、中途半端に見えてならない。握りやすいと言われたことはあるけれど、そうじゃないんだよなあ、と思う。生まれ変わったら、握りやすさより色気が欲しい。例えば先輩のような。

「先輩じゃんけんしましょう。パー出したいですよね」

「は?」

 キーボードに乗せられたまま、たじろぐ指先。それを見て思う。

「理不尽です」

「何が?」

「自分には無いものが全部詰まってて羨ましいというか眩しいというか……」

「何のこと?」

 その声音は見下すでもなくあしらう風でももちろんなく、まろやかに響いた。

「ライが何を想定しているか分かりかねるが、相手にそう感じたなら逆も然りじゃないか」

「逆?」

「ライにしかないものがきっとあるだろ。それを充分大事にして育んだら良いと思うけどな」

「自分にしかないというと、例えばこの柔らかいほっぺみたいな?」

 破顔する様子でわかった。自分の理解はちょっと違う。

「まあ、あの、そうだな。その受け止め方はライにしかできないよな」

「ダメでした?」

「いや、安心した。らしくて良い」

 緩みきった自分の頬を先輩の指が引き上げた。これはそろそろ仕事しろのサインに違いない。

「ほんと柔らかいな」

 憧れの指が離れても、この頬は自分らしく上がったままだった。

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