第6話 視線
戦場で騎士は待つ。
一人は小柄の騎士とメイドの二人だけだ。
これなら、強そうにみえないだろう。
敵にはなめられていると考えてしまうだろう。
そこまでしたんだ、総攻撃なんてできないと騎士は信じた。
けど、問題は相手がどう出るが重要。
騎士は銀の鳥のような兜と、全身鎧に青いマント、ロングソードに短剣のみと装備。
武器は軽装だ。
おりてきたのは二人だけ。
背は低く小柄だ。敵は同数で二人とも子供にしか、みえない。
背後の少女は連れてきたメイドよりも幼いかもしれない。
クリクリした瞳と、丸みおびた頬は年ごろの広いひたいが賢さがみてとれる愛らしさと賢さを合わせもつ少女。
きているものも鎧ではなく、紺の服に華やかなヒモを結んだだけの軽い姿だ。
「ハァハァハァ〜」
体力もあまりないのかもしれない。
丘といっても、それなりに高いさはあったし。
本命の鎧をきた少年も十の半場ほど、騎士より背がすこし高い。
敵は黒い軽装の甲冑に、火竜の頭のようなトゲだらけの兜、赤い羽織と武器は腰に曲刀と短剣のみ。
あの轟音の武器は使うことはないのだろうか。
「どうした?」
相手の男がなにか口にしている。
顔も若いが、声もだいぶ若いと騎士は考えた。
騎士は腰につるしたバスターソードを抜く。
名工・シェイリルガルが鍛えたバスターソード。長さは一メートルと少し、大きな十字鍔と長柄をもつ剣だ。
武器にちがいはすくない、騎士のほうが防御力において分があるだろう。
ゆえに、ここまで差をつぶして現れることは想像の外だった。
敵は
《しょうだく》した。
つまり、彼らにも騎士道精神はあるらしい。
戦いの準備はととのった。
「エメダリア。お願い」
ここで騎士は、連れてきたメイドのエメダリアに命をくだす。
彼女をここにつれてきた理由はひとつ。
そう、彼女は魔法を使えるからだ。
エメダリアは杖を地面につき、答えてくれた。
「はい」
彼女のもつ魔術の力を、高めていく。
魔術を学び、効力を発揮するには数十年の年月が必要だが、エメダリアはいくつかの魔術をおさめている。
そのひとつが、他国語の翻訳魔術。
「ロゴス」
エメダリアはいくつかの魔石をとりだし、ぶつけ、空に投げる。
それは、言葉ともに小さな光を放ち、杖を地面についた。
「お、おい?」
男は警戒するよう構える。
なにもないことに安堵した。
ようやく、騎士は彼らが語る言葉を理解できるようにした。
「まずは、礼をいいます」
ためしとばかりに騎士は感謝の意を敵へと伝えた。
これは本当に同時に言葉が通じているかの確認でもある。
最初から、あの攻撃をされたら全滅していた。
想像だけで、騎士は背筋が凍ってしまう。
ここは緒戦、敵か味方もわからない相手に兵をけずるわけにはいかない。
あの武器を封じるには、これしかない……これは、相手の善意を期待した策だったが、不幸な結果にはならなかった。
言葉が通じないなら殺しあうだけだが、話せると交渉ができる。
言葉がわからないと、対策がとれない。それは相手おなじだろう。
今、相手は表情を崩し、意外な事態に目をパチクリしていた。
この動作だけでも、相手は感情を持っているのがよくわかる。
それと、魔法は彼らは知らない。
一つ、情報が入ったことは喜ばしい。
まず、これが第一歩。
「よく、一騎打ちを承諾してくれた。深謝する。私はマルガレーテ・フォーン・フェアトラーク辺境伯。正々堂々勝負を願います」
息を整えてマルガレーテはバスターソードを抜く……そうして、少年も同じく曲刀を抜刀した。
そう、ここから、戦いは新たに始まる。
良い結果になることを騎士は神に祈った。
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