第5話 甘い敵

二人組が光った!


いきなりの変化に雷鳴集は目を丸くして、冷や汗が流れていた。


なんで……輝いてる。兵馬と仲間と目を合わせて首をかしげてしまう。


人が光るなんて、その理解が追いつく前に届くはずのない声が伝わってきた。


「我々はフェアトラーク辺境伯軍へんきょうはくぐん 、そなたの軍から強者を選び、互いに一騎打ちで勝敗をつけよう」


兵馬たち、武者たちはかわいた笑いがもれる。


まさに時代かかった口上だ。

 戦いが集団戦に移った時代に一騎打ちをいどむとは、よほどの田舎者の狂言きょうげん でしかない。


「そして、負けた側は捕虜ほりょ となり、勝利者には辺境伯の領地りょうち をゆずりわたす盟約を‼!」


一瞬、何をいったのか分からなくなる。


どうして、なにを考えているのだ。


これは、甘い、負けても殺さない、勝てば自分の土地をゆずるとか、何を考えている。


何か裏があるのか、降りてきた一騎打ちの兵を押しつつみ捕らえて、有利な交渉でもするつもりか?


それとも、本気か?


「ど、どうする?」


 兵馬のつぶやきに、皆が眼を白黒させた。


 軍勢の中間に小柄な二人、一人は完全武装の戦士、一人はひらひらした服を着ていることしかわからない。 


 戦闘開始の挑戦は鈴の音のような少女の声。

 その声はひらひらした服装のヤツの声だ……


 これは、侮辱というよりはお笑い種。


「ここは甲斐正虎が」

「情報を聞き出す好機だ。甲斐がいけばすぐにおわる」


わるくない人選だ。

もちろん、他の武者でも結果は悪くないだろう。


 二人が手をあげるが、すでに兵馬は決めていた。


 そう、強者を選ぶなら甲斐となる。

 秋法もわるくはない、冷静に相手の正体をさぐり対策をたてるだろう。


 しかし、今回は別だ。

 敵は銀のハデな装飾の鎧に赤いマント、たぶん大将だ。そうすると、答えはひとつ。


「俺がやる。華やかでいいだろ」


兵馬は自分の置手拭兜おきてぬぐいかぶとを手にとる。着ている縦引き胴も良い状態だ。


「なにを言う。大将同士の一騎打ちは寿永以来の決まりごとだろ」


秋法が思いっきり呆れているのがわかる。


 安堵させようと兵馬はわらい。

 しかし、秋法、甲斐が否定した。


「ばか。相手がわからない以上。大将はまずい」

「俺は戦いたいのだ。この甲斐にやらせてくれ」


 交互にズイズイくる二人の圧に、兵馬は頭をかいた。


 ユサユサと肩をゆする甲斐と心配そうに兵馬に目で圧力をかける秋法。

 二者二様の提案に兵馬をおしとどめ。


「だから、俺ぐらいがちょうどいい、向こうは敗者を捕虜にする甘い条件なんだ。殺されないって」


 見通しの軽さで納得させるには不十分だが、いい争う時間はない。


同時に一つの確信が兵馬にはある。


もし、急に現れたのは自分たちで、相手も兵馬達の存在を知らない可能性。


はじめに交渉を持ちかけると、味方の士気が下がる。だからこほ、豪胆さを見せて交渉に持っていくのは悪い手ではない。


むしろ、先に一騎打ちをもちかけるあたりに相手の知性は侮れない。


ここで、秋法も折れる。


敵も大将なら、兵馬が出てこないと逃げたと嘲笑われ、下に見られる可能性もあった。


「相手の格にあわせるなら……仕方ないか」


 ここは大将の意見と同意した。

 兵馬は銃が得意だが、刀も弱いわけではない。


「あとは、さやかだな」


 兵馬が口にしたのは妹の名前だった。

 連れていくのは相手の人数にあわせで一人。


 卑怯者と感じさせなように、むこうの連れ人が一人なら。


 荷車を押すのにつかれ、よりかかるさやかは不満をあらわにする。

 

「……なんで、私ですか?」

「敵を見ろ。男二人で行くのが、馬鹿らしくならないか」


 さやかは丘下に眼をおろした。

 背丈的に小さな女の子、大男を連れて行っただけで、卑怯にみえる。


 そうなれば、戦いは有利になるかもしれないが、その後の交渉に不利となるだろう。


さやかは他の雷鳴集の仲間をみる。


男らしくむさ苦しい奴らばかり、中には女性もいるが、大人で刀より射撃や情報収支のほうが上手い仲間たちだった。


「めんどうです」


しぶしぶ、さやかは納得したようだ。


 これからの戦いに兵馬は愛刀の三代孫六さんだいまごろくの刀身を確かめた。


 二尺三寸にしゃくさんすん の長さに、荒々しい三本杉の刃紋、重ねが厚く、断ち割るに適した剛刀。


 未知の敵にも対抗できるだろう。

 戦いはある程度有利。

 兵馬は余裕綽々よゆうしゃくしゃくに敵の待つ、平原へとくだる。

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