第4話 狼狽と混乱

 ておるように首は落ちた。


次の騎士を物色しようと顔を上げると誰もいなかった。


「哀れだな」


仲間に見捨てられているとか。


そうして、赤い武士はディユールの首を掲げ、武功を見せびらかすように笑む。


「この甲斐正虎かい まさとら 。敵大将を討ち取ったり!!」


 鎧の赤と鮮血せんけつ の混じった壮絶な微笑

《ほほえみ》に軍は最終的な崩壊してしまう。


一方的な虐殺ぎゃくさつ により大部分の敵軍は撤退を開始していた。


これ以上の進むと本体から離れてしまう、追い首はできない。


「しかたねぇーか」


兵馬は 采配をあげると、部下が一つの旗をゆらし、戦場への合図となった。


甲斐は馬首を返して、本陣に向ける。


騎馬は丘の上に駆け上がってき、戦況の把握と指揮系統の徹底はさすがと言ってもいいだろう。


 しばらくして、気楽に丘の陣へ血にまみれの甲斐が帰還していた。

 心配する気もなかったが、さすがは甲斐だと兵馬は思う。


甲斐は馬をおりて兜を脱いだ。

ひと仕事終えたように血をぬぐった。


「戻ったぜ」


甲斐のそんな様子に兵馬は信頼の笑みで答える。


「さすが、赤鬼だな」

「相手がふがいねぇんだよ。部隊長の首を取ったぐらいで崩れやがって」


甲斐は指をさす、その先には一つの軍隊がいた。


「残った一軍どうする」


 兵馬がのぞんだ一角には銀の軍が残っているが、すでに士気は感じられない。


旗のゆれている。

震えているのが遠目でわかるほど狼狽していた。


さらに、人馬の入れ代わりも見てとれるほど、戸惑っているのがよくわかる。


情けない敵軍だが、数も三千もいる、対するこちらも五十程度。


 力押しなら、こちらの全滅はまぬがれない。


「なぁ、大将、どうする?」


そういう気弱な武者の問もわかる。

荷駄部隊たからこそ、雷鳴集の中でも、二陣の者を集めているのだから、弱気になるのは理解できた。


 答えはいかに。


「しかし、あの銀の騎兵達はいったい何者だ」


甲斐が首をひねる。

その疑問は、よくわかるが、まだわからないことが多い。


「なぜ銃に無頓着で、騎兵の攻撃をしかけたのか、あまりに無策だ」


 秋法が首をひねる。

 それに、戦った甲斐がつづけた。


「銀の鎧はこけおどしだ。簡単に貫けたぜ。しかも、ろくに統率も取れてねぇ。右府ほどじゃねぇ」


そこには、甲斐が討ちとった首を、もとい兜が転がる。


和の甲冑かっちゅうと違い、前面鉄でできていて、しかも、磨ききった銀に輝いていた。


まるで、ヒキガエルのような細かい造形の兜をしている。


よく見てみると、兜の鉄地は薄い。

これなら、見た目ほど防御力はないのがわかる。


甲斐の言葉には説得力があった。


兵馬たちは納得するが、秋法が首を振る。


「いや、情報が少ない。もっと情報がほしい」


 その意見はあってしかるべきだ。棟梁代理として判断を求められている。


「一気に突撃し蹴散らし、捕虜から情報を奪う方法もあるぞ」


甲斐がここで提案する。

ここで、甲斐にあきれたように秋法がみていた。


「おい甲斐、それなら何人か捕まえてこればよかったじゃないか」


思わず秋方がツッコミをいれている。


しょうがないことだが 先に体が動く馬上武者には、これからの考えに向かないか。


こちらも、同じように旗がゆれているのを敵軍も捕らえているだろう。

混乱が伝わらないうちに何かしなければ。

兵馬は答えのでないまま、腕を組み悩んでいた。


そんな、考えをよそに敵陣に動いた。


 両軍の中間に二人の人間が現れる。

 どういうつもりか、わからないが異様な光景だ。


しかも、一人は鎧を着込こまずヒラヒラした衣装を着た子供がいる。


 もう一人も銀の鎧を着込んでいるが、円柱の槍も馬もなく、腰に下げた直剣だけ。


兵馬達も状況も何もわからない。


なにが行われるている。

何をしようとしているのだ。


兵たちの混乱がさらに伝播する。


いま、自軍の震える旗は強くふるえて乱れていた。


「まずいな。先手をとられた」


秋法が苦虫をかむようにいう。


こちらに選択権はなく、相手からの行動の意味を考えなければいけない。


何が、正しくて、間違っているのだ。


わからない。


状況的にどうしたらいい……

 

 兵馬たちはいぶかしんで見ていると、二人は立ち止まり、半歩、前に進んだ子供が旗を掲げていた。

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