第3話 赤い悪魔
ダダッダァァァン!
すさまじい衝撃音が共鳴し、戦場へとひびいた。
鉛弾はあやまることなく騎兵を殴殺していく。
死体のせいで馬がバランスを崩れて雪だるま式に崩壊していく。
「うぁぁぁぁぁぁ!」
前に走っていた……騎士たちの死に悲鳴、混乱が広がっていた。
「お、おい。あのクチバシから火がふいたぞ!」
「なぜだ? 馬が倒れた!」
なぜ、騎士達が死んだのか誰もわからない。
戸惑いがもれて、伝わっていく。
即死した騎士の鎧に穴があいている。凹みではなく、貫かれていた。
矢がない時点で、ロングボウではない。魔力反応もない以上、魔法でもない。
この現象はなんだ!!
答えは出ない。
丘の上のみすぼらしい黒の軍団をながめる。
総数が五十人程だ。こんなに少ない人数で、いや、それよりも、問題は最前列は五人だけ……
「あの人数で、騎兵団を……」
ヒキガエル兜の騎士が
坂には死体の山。
そこに、再びの轟音が反響した。
瞬間に、騎士たちや傭兵が無残に死に騎士は持ち場をはなれて逃げ始めていた。
「お、おい。止まれ!」
「ディユール男爵。崩れは止まりません。早く、撤退を」
部下の眼を移すと、命令をまたずに逃げる味方の騎士達。
目を凝らし見たのは敵が持つ筒先。
そこからは黒煙が上がっている、つまりはあの筒が何かしたのか。
わからない事だらけだ。
「 どうする! どうする!」
手は浮かばない。
しかし、なんだ、あの兵は。
敵はみすぼらしい黒い兵達。火竜のような兜の男たち、その異様はまさに悪魔軍にふさわしい。
ついに馬に乗った四人ほどの兵が坂をおり始めていた。
「騎馬組、突撃!」
先頭の騎兵は驚くべきことに、真っ赤な鎧に角の兜、信じられないことに赤いサーコートではなく、赤い鎧を装備している。
どこの国も銀に磨くのがスタンダードだというのに、赤い……鎧
「本当に……悪魔なのか?」
これは周辺国の軍ではない。
混乱した騎兵は、あっという間に粉砕されてしまっていた。
味方の軍は撤退を開始している。
「し。しまった!!」
見捨てられている。
あの、悪魔と……戦わないといけないのか!
新手の意外な実力に戸惑から、情報を得るために囮にされてしまっている。
「なんだと、ウソであろう……このような、このような、このような……あっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
頭をかかえこみ、この現実からのがれなければ。
こちらは命令を無視し攻撃をしかけたわけだか、 捨てられるとは、このままではあの蛮族に。
ディユールは苦悩の果てに自身の未分こそ武器であることを思い出した。
「そうだ…わたしは男爵だ…死ぬわけが…死ぬわけが……ないのだ!!」
ディユールが生きのこる方法は捕虜になるしかないのだ。
戦争の中で身分の高い騎士を生け捕り、身代金をとるのがふつう。
ここは白旗を揚げて降伏すれば。
敵の勢いはとまらず、黒い波の虐殺をつづく。
たった、三人の騎馬に襲われて100の部隊はくずされた。
そこに赤い鎧の蛮族の兵がいた。
異様さはまさに聖典にある黙示録の悪魔……
そいつはおもむろに口をひらく。
「大将とお見受けする。甲斐正虎がお相手いたす!」
悪魔は悪魔らしく、きいたことのない雑音をくちにする。
ほんとうに、何者だ。こいつらは……
理解が追いつく前に、悪魔がうごく。
そのまま敵は槍をのばして、銀の鎧をつらぬきやぶっていく、抵抗しようとディユールはもがく。
「ま、まて!」
しかし、赤い騎士は、ディユールの言葉を無視して馬ごと乗り入れ、抵抗をゆるさない。
「成仏しな」
むなしく、気づけば赤い悪魔はディユールの白髪をつかまれていた。
このまま首を断ち切るつもりだ。
淡々とした作業が終わるころには、ディユールの命は消えてしまう!
「ひっ! ま、まて。私は男爵だぁぁぁ!」
もがきもがくが、バカ力を前に悪魔の力を引きはがすことができない。
敵の赤い手をににぎりしめる。
必死の嘆願もきくことなく赤い騎士は顎鎧から首を露出させ、曲刀を振りおろす。
最後まで悪魔はなんの感情もない瞳がディユールをみおろしていた。
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