第2話 いきなりの敵

 「えっ!」


 兵馬は目を丸くした。

 ここで獣道をぬけるはずはない。

 数刻はもぐりつづけて、小さな川辺にたどりつく……はず……


 しかし、そこは小高い丘の上。


 いつもは冷静な秋法ですら、目を白黒している。

 武者達の落ちつきをなくさせた。


「ど、どういうことだ?」


 そう、ワラジからつたわる土の感触が決定的にちがう。

 いつものしめった土ではなく、徹底的にかわいて冷たい土。

 この土はありえない。


「空気もちがう。なぜだ」

「お、おい、ここはどこ!」


武者たちも慌てている。

落ちつかせないとすすまない。


「下を見ろ!」


 叫んだ兵につられるように、初めて兵馬は地面を見おろすと。


 瞬間、血の気が引いた。


 そこには何万もの軍勢。


 武者達のあせりと恐怖が伝播していく。

 とっさに後方へ逃げ込むこもうとするが、潜ってきたはずの獣道は消えている。


「待ち伏せだ。右府の軍か」


 動揺がはしり、兵たちが乱れがひろまってく、逃げ出そうとするもの、火縄銃に弾をこめ始め、カルサで、弾丸をこめる者がいる。


戦闘準備を始めなければ、蹂躙されてしまう。


「くそ。見透かされていた」

「こ、殺される」

「早く、逃げないと」

 

 ついに秋法が逃げ道をさがそうとする。


 兵馬は瞬きを繰りかえし、初めて敵を直視する。

 たしかに眼下の大軍はみたことがない。

 

「こんな軍勢、見たことあるか?」


 兵太は次々と眼下の軍勢に目をむける。

 みなが首をひねっていた。

 たしかにおかしい。


「いわれてみれば、見なれない旗が三つ。やつらの鎧もおかしい」


 旗は色とりどりの化け物が盾をささえる構図。

 あんなにたくさんの鎧に銀箔をはりつけた軍隊は右府の軍隊ではなく、多くの軍勢に銀箔をはる酔狂な軍などみたことはない。


「これは違う」

「だが、むこうが動くまでは手はださないほうがいい、待て……」


 兵馬が右手を上げ、武者達は筒先に鉛弾をこめていく。


だから、状況がわからない以上、動きは取れないが戦う準備だけはしたほうがいい。


弾込めさえできれば、負けはない。


 何が起こるかわからない。この現状に兵馬たちは待ち続けていた。


 そこに敵がうごく。

 

「こちらは丘の頂、そこに騎馬で突撃だと! 馬鹿にしてやがる」


 うごいたのは双首の怪鳥旗の軍だ。


馬が大地をけり、かけあげていく。


これはらバカな行動だ。


 高低差がある場合は、高いほうが有利、低いほうが不利。攻める場合は慎重にしなければ。二倍程度で攻めるのは無策もいいところ。


『騎乗突撃ーーー!』


 ヒキガエルのような兜に号令に銀の騎兵は槍をかま突撃しかけてくる。


 しかし、すでに武者達は真横に列を作り防備をととのえている。


 武者達が膝立ちに座り、筒をむけた。百の騎馬の馬蹄が地面をゆるがしていく、迫り来る銀の騎兵の衝撃だけで、並みの兵なら肝をつぶしているところだろう。


やがて武者たちは火蓋ひぶた をきる


 しかし、兵馬は動じない

 ギリギリの分水嶺ぶんすいれい を見分けようとはかる。


 初めて銀の騎兵へと刃先をむけた。

 覚悟を決め、兵馬は命じる。


「鉄砲。はなてぇぇぇぇぇ!」


 引き金を引く。

 瞬時に百雷がはなたれた。

 

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