2章-2.呪いの人形のほうがマシだった 2022.11.7
本当にこの状況はどうしたものかと俺は頭を抱えた。
少女から色々と聞き出すのを諦めた日、俺は面倒ごとから逃げるために、少女を気絶をさせて近くの公園に捨てたのだ。
一度家から出してしまえば、もう同じようにはやって来られないはずだと、そう考えた。流石に懲りるはずだと。少女も俺を殺せないと分かったはずだと……。
だがしかし、俺の考えは甘すぎたのだと痛感する事になった。
なんと翌日、再び大家の佐藤と共にこの少女は何食わぬ顔で現れたのだった。ついでに大家の佐藤に、小さな子を放置するなど言語道断だと説教までされ、踏んだり蹴ったりだった。
捨てても戻ってきてしまうなど、どんな悪夢だ。呪いの人形か何かか? 本当に勘弁してほしい。
そして現在、少女がこの家に転がり込んできてから1週間が経った。
俺は少女を拒絶する事を諦め、管理する方針に渋々シフトチェンジをして耐えている。非常に不本意ではあるが、やむを得ない。
同じ建物内に大家の佐藤がいるのだ。下手な事はできない。何度も少女を追い出していては、流石に大家の佐藤に怪しまれる。
俺は今後も一般的な在宅ワーカーとしてひっそりと暮らしていたいのだ。背に腹は代えられない。
故に少女を家に入れるのを許容しているのだ。より状況が悪化しないようにとの理由である。断じて情が湧いたとかではない。比較検討の末の判断だ。
俺はそんな誰への言い訳かも分からない事を考えながら、何度目かの深いため息を付いた。
自分を無理矢理納得させるのは、非常にエネルギーを要する行為だと痛感する。
とそこへ、ピンポーン……と訪問者を知らせる電子音が部屋に響く。滅多に鳴らなかったはずのインターホンが、最近では毎日のように鳴っていた。
「佐藤じゃ!」
少女はパッと顔を明るくし玄関へまっしぐらに走っていく。俺もそれに続いて玄関へと向かった。
***
俺が玄関に辿り着くころには、少女が玄関のカギを勝手に開けて扉を開いているところだった。扉の向こうにいる大家の佐藤は少女を見て嬉しそうに笑っている。
「中野君、こんにちは。おすそ分けを持ってきたよ。良かったら食べてくれ」
大家の佐藤は手提げを俺に渡す。中を見るとタッパーに煮物や総菜が詰められていた。
「突然女の子を預かるなんて大変だろうけど、頑張って。僕たちも協力するからね」
「あぁ、はい。いつもありがとうございます」
「他にも足りないものや困った事があれば何時でも頼ってくれて構わないから」
「助かります」
俺は営業スマイルで受け応える。とはいえ、大家の佐藤には感謝している。佐藤の娘のおさがりだとは言うが、洋服など必要なものを無償で提供してくれたうえ、こうして食料まで持ってきてくれるのだから……。
とそこまで考えたが、そもそもこの佐藤のせいでこいつを家に入れる羽目になったのだから、何とも言えない気持ちになる。
大家の佐藤は少女を見るのを楽しみにでもしているようで、ちょこちょこ少女の顔を見に来るのだ。佐藤の娘は既に成人して別の場所に住んでいるらしく、寂しいのかもしれない。そんな事を想像したが、無意味な妄想だ。俺からすれば非常に迷惑な話である。
それに、こんなに頻繁に確認されては都合が悪い。少女が不健康だったり元気がないだけでも怪しまれるかもしれない。さらに言えば、後々この少女をどこかに捨てるにしろ追い出す際には、大家の佐藤に少女の事を説明しなければならなくなるのだから非常に面倒だ。
「じゃぁね、お嬢ちゃん。また美味しい物もってくるよ」
「うぬ!」
大家の佐藤は手を振り笑顔で去って行った。
一方の俺は、何一つ状況をコントロールできず、されるがままの状態で疲弊していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます