第9話
また朝が来た。
スマホのアラームに起こされて体を起こす。
昨晩はひどく夢見が悪かった。
何の夢を見たのか、
もう覚えてはいないけれどひどく気分が悪かった。
そう考えてるといきなり体の内側から何かが上がってくるような感覚に襲われた。
口元を手で押さえながら急いでトイレへ駆け込む。
せき込みながら自然に身をゆだねて
この苦痛な時間がたつのを待つ。
ある程度、落ち着いて自分の目元をぬぐう。
いつも吐くものはないのに定期的に謎の吐き気に襲われる。
何が原因なのか、幼いころは母が心配して病院をまわったものだ。
どこに行っても診断は変わらなかった。
「心因性のものでしょうねぇ。」
その答えを聞くたびに気の弱い子という札を付けられた。
いつしか俺の体調不良のある程度は先生にも親にも
「気にしすぎでしょ」
という言葉で片づけられた。
苦しいこともつらいことも家族の中でも知り合いでも千夏だけが
何も言わず背中をさすってくれた。
そんな昔のことを考えながら洗面所の壁にもたれかかりながら座り込んでいると
扉をノックする音が聞こえた。
「駿?大丈夫?」
と言いながら千夏が顔を出した。
その声に少しだけ救われたように感じた。
情けねぇな、俺。
自分が一番こんな体調どうにかしたいって思っている。
自分が一番気を強く持ちたいと思っている。
急いで立ち上げって口をゆすぎ手を洗う。
「大丈夫だよ。俺のこれはいつものことだろ?」
そう言い、ヘラヘラして見せる。
「そうだけど、しんどいのは変わらないでしょ。」
俺の顔を気にせず千夏は真剣な顔ででも心配そうな顔をしてそう言った。
「まぁな。」
お互いに黙り込んで、その沈黙をひどく面倒に感じ口を開いた。
「てか、何か用あったんじゃねぇの?」
「あ、そうそう。落ち着いてからでいいんだけど回覧板
隣の結城さんに渡してくれない?」
そう言いながら千夏は回覧板を申し訳なさそうに差し出してきた。
「わかった。五分経ったら行くわ。」
笑顔を見せると千夏はほっとした顔をして
下に置いていたバックを肩にかけた。
「ありがとう。私これからバイトだから助かるわ。」
「おう。行ってらっしゃい。」
そう答えると、いつもの千夏に戻ったように
「じゃ、行ってきま~す。」
とカバンをもって外へ出た。
千夏が家を出た後、
回覧板をわきに挟んで水を飲む。
水が食道を通るたびにうずくような痛みを感じた。
千花を起こす。
ご飯を食べさせ、朝の教育テレビを見せる。
「千花~ちょっと回覧板届けに行ってくっから。いい子にしとけよ。」
「は~い。」
テレビにくぎ付けになっている妹を家に残して隣の家に向かった。
体のだるさと夏の暑さが胃の気持ち悪さを助長させた。
隣の結城さんの家は
日本家屋の大きな家だった。
まだ引っ越してきたばかりだからだろう。
表札もまだかけられていなかった。
{本当にここなんだよな。}
まぁ違っていたらまた別のとこ行けばいいか。
扉をノックしながら
「すみませ~ん。」
大きな声で呼びかける。
何回か繰り返した後で、
女の子の声が聞こえてきた。
そのあと少しして扉を開けたのは海辺で会った彼女だった。
相手も少し覚えていたのだろうか、驚いた表情をしていた。
簡単な自己紹介をして回覧板を差し出す。
「あ、ありがとうございます。」
海辺での声とは違い、大きなはきはきとした声に同一人物なのか疑問だったが
まぁ自分には関係のないことだったので気にはとめなかった。
「じゃあ、」
背を向けて帰ろうとすると、先ほどとは違った声がした。
少し驚いて振り返った。
「先日引っ越してきました。結城といいます。」
さっきとは違って少しおどおどした声だった。
すこし驚いていると後ろのほうから誰かの声が聞こえてきた。
急いで切り上げるために角の立たない角の立たない
結城家を出た。
出てしばらくして、後ろから幼馴染の友達{早坂伊織、斉木雄太}と会った。
早めに切り上げて正解だった。
女子に興味なしの男子校の幼馴染が同じくらいの年の女子の家から出てきた
ところを目撃したら瞬く間に小中のグループラインの話題になるに違いない。
そんなめんどくさいことごめんだ。
「あれ駿?」
「お、駿じゃん。」
「お、久しぶり。元気?」
「俺たちは元気よ。」
「そっか。」
「うん。駿は何してたの?」
「特になんも、千夏から頼まれてたことしてたんだよ。」
「ふ~ん。」
「千夏さんか~もうずっとあってないからな~。
さらにお綺麗になられてんだろうな。」
「雄太はマジで千夏好きよな。」
少し引いた表情を浮かべながらそう口にすると
俺の言葉に続けるかのように伊織が雄太を揶揄う。
「ほんとに僕も引くレベルでちなっちゃんのこと好きすぎんだよな」」
「うっさい!俺の初恋なんだ!」
そんなどうでもいい話を笑いながらした。
「じゃあ、俺店の手伝いあるから、」
そう言って二人と別れた。
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