第69話
「なに? さっきからあんた」
瑠佳の声は低いトーンだった。ちょい怖いレベルですらある。けれど今は頼もしい。
あたしはそそくさと瑠佳の背後に隠れた。千晶が小さく首を傾げる。
「ん、誰だい君は」
「瑠佳ちゃんまんだよ! 二度と忘れられない名前になるぜ!」
瑠佳の陰から三下野郎が答える。
千晶は前に立ちふさがる瑠佳に目を留めた。それから改めて全身を上から下に眺めおろす。
ところどころ目線を止めて見る。観察する。注視する。
いや見すぎ。
「ふ~ん⋯⋯」
いま絶対こいつ瑠佳もロックオンしたぞ。
へえ、いいじゃん。って考えたのわかる。傍目に見ててもわかる。
「瑠佳ちゃんっていうんだ。瑠佳ちゃんも漫画好きなの?」
「だったらなに?」
瑠佳はにこりともせず突き返す。
いいぞいいぞ、簡単には付け入る隙を与えない。
仲間には優しいけど敵には厳しいみたいなのを地で行ってる。
「あのさ、みさきにベタベタするのやめてくれる? 嫌がってるでしょ」
「嫌がってる? そうかなぁ」
いやそうだよ。
誰が内心喜んでるように見えるって?
「あんたなに? みさきの知り合い? なんなのいきなり来て⋯⋯」
「ボク二年の鏡千晶っていうんだ。よろしくね」
「えっ、二年って⋯⋯先輩?」
「そうだよ? それがどうかした?」
急に瑠佳がたじろぎはじめた。
ちょっと早く生まれたぐらいでなに偉そうにしてんの、とか言うとこじゃないのかそこは。
「いやだって、みさきがタメ口でしゃべってるから⋯⋯」
「ああ、みさきちゃんは特別なんだ」
やめろやめろ特別感出すな。
瑠佳は困惑顔であたしを振り返った。いやそんな助けてみたいな顔されてもあたしこそ助けてなんだが?
という顔を返すと、瑠佳は千晶に向かってぺこぺこと頭を下げ始めた。
「す、すみませんでした、生意気な口聞いて⋯⋯」
「ん、いいよ全然。瑠佳ちゃんだったらタメ口でもいいよ」
「い、いや、そういうわけにはいかないです」
おや急にどうした瑠佳ちゃん。
まさかヤンキー特有の、いや元体育会系特有の上下関係にはうるさいあれか?
あたしは瑠佳の背中からコソコソ指令を出す。
「どうしたの瑠佳? さっきみたいにもっとガンガンいったっていったって」
「いやダメでしょ、だって先輩だよ?」
「だからなによ」
どんな世界で育ってきたんだ。
いまどきそこまで上下関係厳しいとこある?
「そうだよボクは先輩だよ? みさきちゃんもちょっとは敬ってほしいよね」
したり顔の千晶が瑠佳の背後に隠れていたあたしを覗き込んでくる。瑠佳シールドがポンコツになってしまったので、あたしは拳を手に打ち付けながら前に出る。
「なら先輩よぉ⋯⋯先輩らしいとこ見してくださいよ? こっちはいつでもやったりますよ?」
「えい」
「ぁんっ⋯⋯」
この野郎いきなりおっぱいをつんつんしてきやがった。
しかも一発で急所をつかれてちょっと変な声出た。みさきタンクを一撃で破壊した千晶が言う。
「じゃあ瑠佳ちゃんにはちょっと肩でも揉んでもらおうかなぁ」
「いやいや調子乗りすぎでしょ意味わからんし」
「は、はい⋯⋯」
「いやいや瑠佳?」
急に従順すぎる。まるで弱みを握られた系のエロ漫画ばりに素直すぎる。
千晶は椅子にこしかけて背をもたれた。瑠佳はその背後に回って、言われるがままに肩に手を置く。
「こ、これで⋯⋯いいですか?」
「んー⋯⋯もっと強くてもいいよ」
「じゃあ⋯⋯これぐらい?」
「あ、それいい。いいよぉ瑠佳ちゃん⋯⋯気持ちいい」
絶対わざと言ってるだろコイツ。
瑠佳が丁寧にご奉仕するかたわらで、あたしは棒立ちだった。不良に目の前でNTRされる彼氏にでもなった気分だ。
「ふぅ、ありがと。じゃあ、お返しにボクがしてあげるね」
「えっ、いや、いいですそんな⋯⋯」
「そんな遠慮しないで」
瑠佳を無理やり椅子に座らせた千晶が背後に回る。
「どう? 痛くない?」
「い、いえ⋯⋯」
「気持ちいい?」
「は、はい⋯⋯」
両肩にまんべんなく手を触れながら、千晶は瑠佳の耳元で囁くように言う。
いや近づきすぎ近づきすぎ。触り方ネットリしすぎ。ついでに髪の匂いかぎすぎ。
「腕とか、けっこう筋肉あるんだね?」
「そ、そうですか⋯⋯?」
「あ、でもここはぷにぷにかな?」
とうとう見ていられなくなったあたしは、後ろから千晶の頭頂部ごと掴んでひっぺがした。首ぐきってなった千晶が口を尖らせてあたしを振り返ってくる。
「なにするんだみさきちゃん」
「さすがに見てられない」
「そっかそっか~。じゃあ次みさきちゃんにもしてあげるからね」
「誰が物欲しそうな目をしていた? 瑠佳行こう、ここはもうダメだ」
あたしは瑠佳の手を取って椅子から立ち上がらせた。瑠佳はまるで催眠から覚めたように目をパチパチさせた。もしかしてそういうの入り込みやすい人?
千晶があたしの袖を掴んでぶんぶんしてくる。
「なんでなんで? ふたりとも入りなよ、大歓迎だよ」
「いえいえ結構間に合ってます」
「にしても未優ちゃんといいこの前の莉音ちゃんといい、なんかみさきちゃんの周りってかわいい子いっぱいだね」
「はっ、いいでしょ。ミサキングハーレムだよ」
「はーれむ? うーん、じゃあ総取りしちゃおっかな」
こ、この女⋯⋯。
あたしがじっくり育ててきたハーレムを⋯⋯。※違います
「みさきちゃんがそんなだからさ、未優ちゃんがひねくれてるんじゃないの」
「な、なによ急に⋯⋯」
「ハーレムとか本気で言ってるのそれ?」
なぜかあたしが詰められてる。あの千晶が珍しく真面目な顔だ。
でもでもだって未優だってなんかちーちゃんがどうたらとかアピってくるしぃ。未優もなんか冷たい感じ出してくるしぃ。
そんなときに他の子から優しくされたら⋯⋯あれ? なんかあたし典型的地雷女ムーブかましてる? 地雷系Yandereチョロインとか属性盛りすぎぃ。
というか諸悪の根源がどの口で言うか。
「まぁいいや。じゃあ瑠佳ちゃん、連絡先教えて⋯⋯」
「はいはい行くよ瑠佳! もうそいつには近づかないようにね!」
あたしは瑠佳の手を引いて部屋の入口へと向かった。千晶がしつこく追いすがってくる。無視して行こうとすると、目の前でがららっと勢いよく戸が開いた。
「おーすやってるかー!」
茶髪マッシュルームの小柄な女子生徒が元気よく声を張り上げた。
と思いきや、あたしの顔を指差して驚きの表情をした。
「う、うわああああああ!! 美少女ちゃんがいるうううう!!」
この顔と声とテンション、どこぞで見覚えがあった。
あたしを見つけるやいなや、いつもうしろからパンパンしてくるお姉様だった。
「え、なになになに! どうしたのどうしたの! なんでいるの!?」
「なんかマンガ部入りたいらしいよ」
千晶が答えると、パンパンお姉様の目がガンギマった。
「えっ、マジ!? ウチ入る? 入るんだ! 入るよね? じゃあ入れるからね! 入れるよ!!」
あたしの両肩をわしっと掴んで、念押しをはじめた。
目が怖い。そんなになにを入れるつもりなのか。
「え、えっと、まだ入ると決めたわけでは⋯⋯。その、水泳部も勝手に入れられたみたいで⋯⋯」
「ウチは全然かけもちオッケーだから! ゆるくぬるくエロく! がはははは!」
さっきの一年生たちと温度が違いすぎる。大丈夫なのかここ。
勢いに押されていると、パン姉は瑠佳に目を留めた。また目を丸くする。
「おおおエロいギャルきたあああああ!!!」
というが瑠佳が別になにかエロいことをしたわけではない。見た目の印象で勝手に言ってるだけだ。
まあそこはかとなくエロい雰囲気があるのは同意する。
「エロギャルちゃんも入部希望!?」
「え、エロギャルじゃないですけど、えっと、ちょっと見学に⋯⋯」
「はーいギャル一名体験入店入りまーす! 頑張っていきましょーう! てか敬語ギャル萌えるううう!」
ひとしきりわめいたあと、腰パンお姉様は千晶の肩を叩いた。
「じゃあ美少女ちゃんとギャルちゃんの代わりにお前はやめていいぞ千晶。てかもうくんな」
「アヤちゃん⋯⋯どうしてそんなこと言うんだ」
「だってお前ろくに活動せんやん。部員にちょっかいかけに来るだけやん」
問答無用で千晶の背中を押して、部屋の外へ押し出した。
ピシャっと荒々しく戸を閉めて締め出す。強い。
「はい邪魔者消えた! フゥ~~~フィーバーフィーバー!!」
アヤちゃんさんはMPが減りそうな踊りをしながら、瑠佳の背後に組み付いた。
「こんなスカート短くていいのかいいのか~?」などと言いつつ、体を密着させていく。
「え、ち、ちょっと⋯⋯」
「大丈夫大丈夫、アタシ部長よ? ここの子みんなやってるから! 入部の儀式だから! コレやるとすぐ打ち解けられるよ!」
明らかに浮いている気がするんだけど、この人ほんとに部長なの?
ひとしきり瑠佳の尻をパンパンしたあと、部長は目をキラキラ輝かせながらあたしに聞いてきた。
「それで、美少女ちゃんはどんな性癖があるの? 〇〇? 〇〇〇〇? 〇〇〇〇?(自主規制) ここの部員おとなしく見えてみんなむっつりだから、どんなドギツイのも受け入れるよ! 言っちゃいなよ!」
う~ん、やっぱり入るのやめよっかな。
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