第20話 いざ、次のダンジョン都市へ!
「いきなり旅立つとはどういうことだ。結局団長にも報告が出来なかったではないか!」
「俺に言うなよ。勝手に監視してるのはそっちだろ」
「うっ、それはそうだが……」
ルサーナを旅立った日の夜。
俺とリレリアと教会騎士の女性は、三人で焚き火を囲んでいた。
「そもそもなんであんな場所で待ってたんだよ。わざわざ教会に何も言わないで逃げてきたのに、お前がついてきたら台無しだろうが」
短い会話でわかったのだが、この教会騎士は押しに弱い。
と言っても恋愛的な話ではなく、とにかくこちらから何かしら相手の瑕疵をついてやれば、本人もそのことを申し訳なく思うのかこちらの勢いに押されっぱなしになってくれるのである。
そんなことが短い時間でわかったために、俺は普段よりも少しばかりガラの悪い態度で接している。
まあ相手も、ぶっちゃけ教会騎士らしいちょっと高慢な態度の女性なのでお互い様と言ったところだ。
「う、そ、それは、神託で……」
「神託ぅ? なんでそんなものが俺に関わってるんだよ」
神託とは、言ってみれば教会の関係者が神から下されるお告げ、のようなものだ。
俺はぶっちゃけその存在は信じていないが、それによって大災害を予言した聖女であったり、危険なモンスターの襲来から人々を救った聖騎士であったり、あるいはダンジョンでの異常発生を事前に予言して被害を抑えた聖職者であったりと、前例には事欠かない。
とはいえそうそうポンポン出されるものでもないはず。
噂になっているものだって、大抵大事件を防いだりしているものばかりだ。
「私が知るか! ただ今日の昼間にここに立っていろと、世界の行く末を左右することだからとやってきただけだ!」
「じゃあなんだ、俺達を狙ってきたわけじゃないのか」
「当たり前だろう!」
「じゃあなんで俺達を監視するなんて言ってきたんだよ」
俺の言葉に、教会騎士の女性、マリベルというらしい彼女はカチンと固まる。
「おーい?」
目の前で手を振っているが、どうも反応がない。
というかリレリアさんや、食事に必死なのはわかるが、少しは会話に参加してくれ。
お前が目的だろこの人。
「あ、いや、その……」
「なんで?」
「教会で要注意人物として名前の出たあなた達を監視することは教会騎士の責務だと思ったからです……」
ちょっと凄んでやればマリベルはすぐに真実を口にしてくれる。
しかも高慢で当たりの強い口調は作ったものだったのか、素の彼女らしき口調が表に出てくる。
こいつちょろいな。
「じゃあ、神託も途中で無視しちゃったわけだ。俺をどうこうしろと言われてるわけでもないのに」
「うっ」
「それで正義か何か知らないけど、先走って、俺を監視してやろうとこんなルサーナから離れたところまでついてきちゃったと」
「ううっ……!」
「それでよく教会騎士が務まるな」
「もう言わないでくれ……!」
あかん、この人虐めるの楽しい。
とはいえ悪ノリは良くない。
真面目な話を聞いておきたいのだ。
「それで、なんで教会ではそんな話になってるんだ?」
「そんな話、というと?」
「俺が要注意人物って話だよ。これでも結構善良な探索者だったと思うんだが」
俺がそう言うと、彼女ははっとした表情で顔をあげて、その後俺とリレリアのことを睨みつけてくる。
「そ、それは! お前が魔族を匿っているからだろう!」
「なるほどねぇ。流石にバレてたわけか」
まあルサーナから姿を消してしまえば、その後ルサーナの聖堂教会支部がどうのこうの出来るわけではないので俺に直接的に何かをしてくることは無いだろうが。
そもそもダンジョン都市に配置される教会は、ダンジョン都市
これは、ダンジョン都市という国家にとって大きすぎる存在が影響力を持ちすぎることを嫌った各国上層部及び
俺もあまり学がある方ではないが、意外と本などは好きで、探索が休みの日に図書館などで時間を潰していたときにそんな本を読んだことがある。
つまり、俺がルサーナを出た時点であそこの聖堂教会は俺に手を出してくることが出来ない。
まあ他の教会の支部や教皇領本領などに伝わってしまえば変わらないかもしれないが、フェル曰く魔族に対して警戒しているのはルサーナの教会であって、教会全体ではないらしい。
何故そんなことを知っているのか小一時間問い詰めたかったが、それはまあ良いとして。
そんなわけで俺達はルサーナを離れたのに、余計なものがついてきてしまった。
「でも今のお前にはなんの権限も無いだろ。まあ勝手についてくる分には止めないが」
「うっ、それはそうだが……」
はあ、なんの権限も持たない教会騎士ならば警戒する必要もないだろう。
彼女自身生真面目な質で、権限なく俺達をルサーナへ引きずり戻そうとかはしてこないようだし。
「終わった?」
「おう、終わった終わった」
「まだ終わってないぞ!」
「うるっせ。じゃあ何か用があるのか? 正式なものなんだろうな」
そう言い返せば彼女は黙ってしまう。
そうだよな、生真面目っぽいから、権力とか権威の曲解とか出来なさそうだし。
「次も、ダンジョン?」
「ん? んーまあ、ダンジョンが稼ぎやすくはあるな。けど探索者じゃなくて冒険者ってのもありだと思ってる」
そんなことよりリレリアとの会話である。
探索者というのは文字通りダンジョンを探索する者だ。
では冒険者とは何かというと、大自然を冒険する者のことを指す。
この世界には、ダンジョンほどではないものの自然の中にも普通にモンスターが存在している。
中にはダンジョンのモンスターと比較しても遥かに強力で何百年も討伐依頼が出たままの伝説のモンスターもいるし、ダンジョンの深層よりも遥かに到達の難しい秘境だって存在している。
そんな場所に依頼を受けて赴いたり、普通に探索して持ち帰ったものを売却して利益を得ているのが冒険者だ。
多分全体的な戦闘力としては探索者の方が強いが、彼らは彼らでモンスターから村を守ったり、野生に発生した強力なモンスターの討伐に赴いたり、あるいは行商の護衛であったりと色んな場面で活躍している。
俺達もそちらは初経験になるが、戦闘力自体はある。
行商の護衛はリレリアの能力は人に見せられないのであれだが、普通に依頼を受けてモンスターを倒すぐらいならば出来るのではないだろうか。
「ま、次の村についてから考えるさ」
「ん」
まだ旅は始まったばかり。
余計なものが一個くっついてきたが、まあ取り敢えずは邪魔にはならなそうなので良しとしておくことにしよう。
さて、次はどんなものが待っているのか。
ずっと、死ぬまで安全に生きていられればそれで良いと思っていた。
だが、リレリアが来てから俺の世界が動き始めた。
今は、彼女とともに世界を見て回ることを楽しみたい。
心の底からそう思える。
そう考えながら俺は、俺にもたれかかって寝息を立て始めたリレリアの頭をそっと撫でるのだった。
~~~~~~~~
これで第一章は終わりとなります!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
被追放回数最多の探索者は、それでもパーティーに入りたい ~窮地に追い込まれると強い能力はとても魅力的だけどずっと窮地はごめんです~ 天野 星屑 @AmanoHoshikuzu
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