【40話】ゲームリセット

 

 ギーツの視線が、剣の刀身に向く。

 

「魔剣・マジックドレイン。刃を交えた相手の魔力を奪う効果を持っている。貴様は身体強化系の魔法でその化け物じみた動きをしているようだが、魔力がなくなれば非力な少女だ。殺すのは容易い」

 

 ギーツの言っていることは正しい。

 

 【勇者覚醒】を発動している間は、常時魔力が消費されている。

 魔力がなくなれば当然、【勇者覚醒】の効果も消えてしまう。

 

 マジックドレインと数多く打ち合ったせいで、ユウリの残存魔力は残り少ない。

 あと一、二回打ち合えば、魔力が尽きてしまうだろう。

 

「貴様の魔力量は、もう空に近いな」

「まるで俺の魔力量が見えているかのような言い草だな」

「刃を交えれば、大抵のことは分かる。あと一、二度打ち合うだけで、貴様の魔力は空になるだろう」

「そこまで分かるとはすげえな。大正解だ。……でも残念、もう一歩だったな」

 

 自分の胸に手を当てたユウリは、ニヤリと笑う。

 

「さあ、ゲームリセットといこうぜ。【勇者覚醒】」


 【勇者覚醒】は、ステータスを極限レベルまで高める効果を持つ。

 それは魔力量も例外ではない。

 尽き欠けていた魔力は【勇者覚醒】を発動したことで、元に戻った。

 

「貴様、いったい何をした?」

「打ち合えば分かるさ」


 空いていたギーツとの距離を再び詰めたユウリは、ヒノキノボウルグを繰り出した。

 

 マジックドレインでそれを受けたギーツ。

 瞬間、大きな動揺が走る。

 

「馬鹿な! 魔力量が戻っているだと!?」

「言ったろ? ゲームリセットだってな!」


 目にも止まらない速さで、ユウリは連撃を繰り出していく。

 

 ギーツはそれを防いでいるが、だんだんと押され始めていた。

 ユウリの魔力量が戻っていることに、ギーツは動揺を隠しきれていない。

 それが、動きを鈍らせているのかもしれない。

 

 だがらこそ、隙が生まれる。

 

「ここだ!」


 がら空きとなっていたギーツの腹部に、ヒノキノボウルグを深々と突き刺す。

 

 地面に膝から崩れるギーツ。

 ゴポっという音とともに、大量の青い血が口からこぼれた。

 

「少女よ、貴様は強い。私の完敗だ」

「いや、結構惜しかったぞ。魔力が空になっていたら、俺の負けだったからな」

 

 魔力を奪われていることに気づかないでいたら、ユウリは死んでいただろう。

 力を吸い取られていくような違和感に気づいたことが、勝負の決め手だったのだ。


「そうか」


 ギーツがフッと笑った。

 その笑みは、どこか満足気だ。

 

「しかしその程度の力では、凶王様に遠く及ばない」


 ゆっくりと瞳を閉じるギーツ。

 もっとも尊敬していると言っていた凶王の名を最期に挙げ、笑って死んでいった。

 

「じゃあな」


 死したギーツに、別れを告げたユウリ。

 潔い性格をしていて個人的には好感を持てる相手であったが、殺したことにまったく後悔はない。


「俺は、俺のすべきことをするだけだ」

 

 口元を引き締め、凶王が待ち受ける大広間への扉を開いた。

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