潜入のための変装

 根拠のないことでも、今は前向きに捉えることが必要だと思った。

 この期に及んで引き返すわけにもいかず、ウィニーたちと行動を共にする以外の選択肢はない。

 内川のように離脱するつもりならば、もっと早い段階でしておくべきだろう。

 友のことに意識が及ぶと胸に苦しさを覚える。

 俺は気を紛らわすように、地下通路の状態に意識を向けた。 


 通路自体は上下の間隔があることで狭さを感じにくい一方で、 上下左右を岩壁に囲まれていることで圧迫感がある。

 魔道具の光で明るさは保たれており、移動に十分な視界は確保されている。

 皆が一様に口を閉じており、重要な局面が近づくことを実感した。

 

「――折り返しをすぎたから、出口までもう少しだ」


 どこまでも続くような錯覚に陥りかけたところで、ウィニーの声が聞こえた。 

 ようやく半分以上進めたということのようだ。

 体感では早いペースで歩いているのだが、エリーも遅れずに進んでいるようだ。

 華奢な見かけによらず体力があるらしい。

 少しずつ息が上がっていたため、自分にあと半分だと言い聞かせて足を運ぶ。 

 

 地下通路のように閉じられた空間を歩いていると、色んなことが頭をよぎる。

 元の世界のこと、転移魔法陣で飛ばされた六人、魔王に吸収された二人、そして内川のこと。

 この状況が危険であると分かっているが、皆と比べればマシな状況だと思う。

 頼れる仲間がいることほど心強いことは他にない。


 やがて先頭のウィニーの足が止まり、全体の動きも止まった。

 縦に並んだ状態から扇状になって一カ所に集まる。

 彼が行き止まりの壁に何かすると重そうな岩壁から大きな音がした。

 重量感のある振動を伴いながら、ゆっくりとスライドするように動いていく。


 やがて岩壁があった場所に空間ができていた。

 ここからさらに進めるようになっている。

 ウィニーはそれを確かめてから、全体に呼びかけた。


「……ここから先は城内だ。もう一度確認するが、覚悟はいいな?」


 まるで息を合わせたように皆の首が縦に動いた。

 俺もウィニーの呼びかけに応じて頷いた。


「ここからは慎重に頼むぜ」


 ウィニーが前に進んで、後ろから他の面々が続く。

 壁が動いた先には階段が延びており、どこかに通じているようだ。 

 一段ずつ足を運びながら、緊張が増していることに気づく。

 魔眼の変化にも意識的にならなければならない。


 階段の先は天井になっていたが、ウィニーがふたを持ち上げるような動きをして、その先から光が差しこんだ。

 そのまま彼が先に外に出て、皆が順番に続いていく。

 自分が最後に出ると、そこは倉庫のような部屋だった。

 城内の備品と思われる家具や調度品がいくつも保管されている。


「普段は使われない部屋だ。おれの方についてくれている内通者に頼んで、フリッツを味方する連中が入らないようにしてある」


 ウィニーは手短に説明すると、部屋の片隅にまとめられた木箱に手を伸ばした。

 彼はその箱を開いて、中身を一つずつ取り出して床に置いていく。

 どうやら中身は装備品の類のようだった。


「これは城内の兵士と同じ装備だ。これで変装して、目立たないようにする」


 鎖かたびらに肩当てや胸当て。

 入念な準備を示すように足元を固めるブーツまである。

 城の兵士が身につけるだけあって、しっかりした造りだった。


 ルチアは薄着なので上から着れそうだが、ミレーナはどうするのだろう。

 そんな疑問が浮かんだところで、装備の一つをミレーナが手に取ろうとした。

 彼女を制するように慌てた様子でウィニーが声をかける。


「おおっと、ちょっと待て。ミレーナはそのままの服装でいい。高位の魔法使いのお前が城の近くでおれを捕まえて、フリッツまで連行するのを装う」


「分かった」


「それからルチアは耳が目立つから、これをかぶってくれ」


 ウィニーはルチアに兜を差し出した。

 彼女はそれを受け取り、ゆっくりと頭の上から身につけた。

 兜の頭頂部に丸みがあるため、ちょうどそこに耳が収まったようだ。 


 俺は身につけるのが初めてだったので、ウィニーに手伝ってもらいながら装備品を装着していく。

 籠手(こて)まで付け終えたところで、一式揃ったことを告げられた。

 こんなところで人生初の経験をするとは思いよらなかった。

 多少重量はあるものの、歩けないほど重さは感じない。




「私の耳は目立ちませんか?」


 全員の着替えが済んだところで、サリオンがウィニーにたずねた。

  

「マルネの兵士にはエルフもいるから、そこまで怪しまれないだろ」


「なるほど、分かりました」


 こうして準備が整い、ウィニーがサリオンに指示を出した。

 捕縛したことを装うために縄で縛っておくということだ。 

 それに応じて縛り終えたところで、サリオンがウィニーに声をかける。


「わざと緩くしてあります。何かあれば、自力でほどけます」


「早速、城の廊下に出る。おどおどすると怪しまれる。堂々としてくれよ」  

 

 ウィニーをサリオンが連行するようなかたちで進み、ルチアが扉を開いた。

 緊張から手に汗が浮かび、心臓がドクドクと脈打つのを感じた。

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