第32話「どうかしましたか?」
「へぇー、橋本くんはバレー部なのかぁー」
「あ、は、ははは、はい……」
「そっかー、背が高くてカッコいいと思ったー。モテるでしょ?」
「い、いえ、も、もももモテはしな……」
「あははっ、橋本くん、そんな謙遜しなくていいんだよー、可愛いねぇ」
「あ、あう、そ、そそそそっか……」
南美姉、咲美姉、望月さんの怒涛のアプローチが続いている。橋本は今にも倒れそうだ。でも、逃げ出したりしないだけ、あいつも少し成長したのかもしれない。
「は、橋本さんは大丈夫でしょうか……」
俺の隣で心配する琴音さんだった。
「ちょっと刺激が強すぎるかな……でも、なんとか耐えているのは偉いと思うよ」
「うーん、耐えているようにも見えて、逃げられないような感じにも見えますね……」
たしかに、橋本も俺の方をちらちらと見ては、『助けてくれ……!』と心の中で言っているような感じにも見えた。仕方ない、このあたりでちょっと人数を減らすか。
「……よし、橋本が泡ふきそうだから、俺の部屋に行こうか」
「お、いいねいいねー、若い者同士、楽しんできたまえ!」
「そうそうー、若い男女が一つの部屋で……ふふふふふ」
「ちょ、ちょっと待って、二人が想像しているようなことは何もないからね……」
俺たち四人は立ち上がって、二階の俺の部屋へと行く。そのとき橋本が、
「……し、死ぬかと思った……」
と、俺に小声で話しかけてきた。
「……よく頑張ったよ。逃げ出さなかっただけ、成長してるな」
「……い、いや、とても逃げられるような状態ではなかった……」
ふーっと息を吐く橋本。まぁなんにせよ、頑張ったのは間違いない。
俺は三人を部屋に案内した。
「おおー、ここが赤坂くんの部屋かー! けっこう綺麗じゃーん!」
「ま、まぁ、掃除はしてる方かな……あはは」
部屋の中をキョロキョロと見回す望月さんだった。あれやあれはクローゼットの中に隠してあるから、たぶん大丈夫……って、あれってなんだろうか。
(……まぁ、一番気になるあれも隠してあるから、大丈夫だろう)
心の中で勝手にほっとしていた。
「あ、そーいえばさ、琴音と赤坂くん、下の名前で呼び合うようになってるよねー! ふふふ、あたしは聞き逃さないよー!」
ニコニコしながら俺と琴音さんを交互に見る望月さん。あ、ば、バレていたのか……まぁ、それも時間の問題かなと思った。
「そ、そうだね、なんかそういう流れになったというか……あはは」
「……お、お前らいつの間に……! くっ、俺が知らないところで、赤坂だけいい思いしやがって……! ここに呪いのお札をつけていってやる……!」
「お、おい、そんな物騒なことはやめてくれよ……」
「あー、橋本くんも、うらやましいんでしょー? あたしが下の名前で呼んであげよーか?」
「……え、ええ!? あ、あう、や、やっぱり恥ずかしい……」
結局ここでも顔を真っ赤にして俯く橋本。それを見て俺たち三人は笑った。
「あははっ、橋本くん可愛いー! ねーねー、琴音と赤坂くん、どっちから下の名前で呼ぼうって言ったのー?」
「あ、私が言いましたよ。『赤坂さん』って、なんとなく噛みそうでしたので」
「そっかー、琴音もやるじゃーん! 昔はおとなしくて、あまり話せない子だったのにねぇ」
「ひ、日葵……!」
ケラケラと笑う望月さんに、なぜか慌てる琴音さんだった。
……ん? あまり話せない……?
俺は何かを思い出しそうになって、頭の中にぼやっと浮かんだが、結局何なのかよく分からずにいた。
「……どうかしましたか?」
はっとして見ると、琴音さんが俺を覗き込んでいた。
「あ、ご、ごめん、何か思い出しそうだったんだけど、よく分からなくて……」
「そうですか、あまり無理をしてはいけませんよ」
「う、うん、ありがとう」
「あーそうだ! この四人で海に行くって話、来週でもいいかなー? あたしも早く行きたいんだけど、家の用事もあってさー。ごめんねぇ」
望月さんがパンと両手を合わせて言った。
「ああ、うん、俺は大丈夫だよ。橋本と琴音さんは大丈夫かな?」
「あ、ああ、俺も、大丈夫」
「はい、私も大丈夫です」
「よっしゃー! やっぱ夏といえば海だよねー! あ、赤坂くんも橋本くんも、あたしの胸やお尻見て驚くんじゃないぞー」
「え!? あ、う、うん、見ないようにする……って、それは無理か」
「あははっ、赤坂くんは琴音の魅惑のボディに悩殺されるって決まってるからねー」
「ひ、日葵……! まぁ、大河さんが見たいなら、仕方ないですね」
「ええ!? い、いや、まぁ……そういうこともある……あはは」
……ちょっと待て、そういうこともあるってなんだ。今度は俺が恥ずかしくなるのだった。
この後、四人で色々な話をして盛り上がった。まぁ、橋本も少しだけ女性に慣れたような気がするし、これも夏休みの思い出なのかもしれない。
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