第16話「聞きたかったのです」
天乃原さんと望月さんと一緒に帰った日の夜、俺は部屋でゲームをしていた。
もうちょっとでここがクリアできるんだよな……それが終わったら勉強……って、なんか順番が違うと思われそうだが、俺は先に楽しいことをしたいのだ。仕方ないことと言い聞かせてゲームを続ける。
やった、クリアした……と思ったその時、スマホが鳴った。画面には『橋本』と出ている。俺はスマホを手に取った。
「もしもし」
「もしもーし、赤坂、ゲームやってただろ?」
「な、なんで分かるんだ」
「俺くらいになると、赤坂が何をやってるかお見通しってもんよ!」
そこでドヤるのがよく分からないが、まぁ当たりなので何も言えなかった。
「なんだ? 何か用事があったのか?」
「あ、いや、そういえば今日、お、おおお女の子と、一緒に帰ってなかったか?」
「あ、ああ、天乃原さんと、隣のクラスの望月さんと一緒に帰ったが」
「なん……だと……!? やっぱりそうだったのか……ちくしょう、俺がおおお女の子と話せないからって、お前ばかりいい思いしやがって! 末代まで呪ってやる……!」
「おいおい、物騒なことはやめてくれよ。橋本も女の子と話せばいいじゃないか」
「だ、ダメなんだ……どうしても緊張してしまって、声が出ないというか……どうしてこうなっちまったんだ俺は……」
さすがにそれは知らないが、橋本の女性恐怖症(?)をなんとかしてあげたい気持ちはあった。ただ、時間はかかりそうな気がする。
「うーん、でも何もしないとそのままだからなぁ」
「そうなんだよなぁ。このままってのも男としてなんか悲しいから、なんとかしたいんだけどなぁ」
「そうだなぁ……あ、女の子と遊びに行くってのはどうだ?」
「ええ!? そ、そ、それはハードル高すぎる……!」
「そうか、いきなりは難しいか……じゃあ、うちに来るってのはどうだ? 俺の姉たちと話せば、少しは克服できるんじゃないかと」
「お、おお、そういやお姉さんがいるんだったな……し、仕方ない、俺も男だ、い、行かせてもらおうじゃねぇか」
もう震えてる……というのは言わないでおいた方がよさそうだ。
「まぁ、もうすぐ夏休みだし、その時にうちに来ればいいよ」
「そ、そうだな、そうさせてもらおうかな……い、今から練習しておかねば……」
何の練習だよ……と思ったそのとき、ピコンとスマホから音が聞こえた。誰かからRINEが来たようだ。
「あ、すまん、誰かからRINEが来たみたい」
「おう、んじゃまた学校でなー」
橋本との通話を終えて、俺はスマホの画面を見る。どうやら天乃原さんがRINEを送ってきたみたいだ。
『赤坂さん、さっきまでゲームしてませんでしたか?』
な、なんでみんな俺のことが分かるんだ……? え、俺、監視されてる……? それはないか。みんな勘がよすぎるよ。怖くなってきたよ。
『あ、うん、ゲームやって、終わって橋本とちょっと話してた』
『そうでしたか、やっぱり私の勘は当たったようですね』
『うん……って、どこかから俺のこと見てる?』
『いえ、私くらいになると、赤坂さんが何をやっているかお見通しなのです』
なんか、橋本と同じようなこと言うんだな……というのは言わないでおこう。
『そ、そっか、ゲームも終わったし、今から勉強しようと思ってたところで……』
『それはいいですね、私も勉強します。でもその前に』
その前に? と思ったら、通話がかかってきた。相手はもちろん天乃原さんだ。俺はすぐに通話に出る。
「も、もしもし」
「もしもし、あ、こんばんは」
「こんばんは……って、どうかした?」
「いえ、その……赤坂さんの声が聞きたかったのです」
天乃原さんの言葉を聞いて、俺はドキッとした。
赤坂さんの声が聞きたかったのです。
赤坂さんの声が聞きたかったのです。
心の中で二度繰り返した。
「そ、そっか、こんな声でよければ、いつでも……あはは」
「不思議ですね、今日も一緒に帰ってきたのに、こんなこと思うなんて……あ、帰りは日葵が失礼しました」
「ああ、いえいえ、望月さんもいい人そうで……」
「日葵は明るい子なのですが、昔からちょっと元気がよすぎるというか。でも、いい子なので安心してください」
電話の向こうで、いつもの真面目な顔になっているのかな、そんなことを思っていた俺だった。
「うん、まぁでも、天乃原さんも慌てることがあるんだなって、知らなかった一面が見れて嬉しかったよ」
「……あ、そ、それは忘れてください」
あ、ちょっと恥ずかしいのかな、それもまた可愛いなと思った。
……ん? お、俺は何を考えているのだろうか。
「……声、聞かせてくれてありがとうございました」
「いえいえ、あ、天乃原さんも勉強するよね、邪魔になったらいけないね」
「大丈夫です、じゃあまた学校で。おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
通話を終えて、なんだか元気になった俺は、机に向かうことにした。
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