無題
#コラボレーション #フィーチャリング #空虚な繋がり
――バンド活動を続けていくにおいて、目標としていることはありますか?
「やっぱり音楽だけで生活していくこと。バイトをやめてもいい暮らしに早くなりたいです(笑)。それは冗談として、武道館、紅白歌合戦。みんなが目標としているものは、バンドとしても目指したい」
――██さんはソロでボカロPとして活動していた時期もありますが、バンドのメインコンポーザーとしての、██さん個人の目標もお聞かせ頂けますか。
「うーん、個人として……。僕自身は、誰かを圧倒的に励ますような音楽も作りたいし、誰かの圧倒的なトラウマになるような音楽も作ってみたいです。とにかく誰かの心に強く強く残って、消そうとしても消えないような」
――最近はボカロP出身のミュージシャンも多いですよね。ソロで活躍している方も多い中、バンドという形を選ばれた理由は?
「……やっぱり、憧れ。憧れが強いです。僕たちが子供の頃はまだフェスバンドがブームだったりして、███とか、███とか、あと親の世代の███とかの偉大なバンドの音楽を耳にすることも多かったです。なので、やっぱりバンドがよかった。今はコラボだとかフィーチャリングだとか、もっと言えばメンバーが流動的で顔出しもしてない音楽プロジェクトだとかも主流になっていて、それはそれでいろいろなひとたちの力を借りながらより幅広い表現ができるから楽しそうではあるんですけど……。」
「正直言って、バンド向いてないなと思うこともあります。でも、やっぱりバンドがいい。僕は特別歌が上手いわけでもないし、他の追随を許さないカリスマになりたいわけでもないので、一時的で空虚な繋がりよりも、未来永劫育てていけるような、大きな生き物の臓器の一部になるように、バンドマンでありたいです」
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これは御伽噺だと思って聞いてほしい。そう、御伽噺だ。大多数のあなたたちには全く関係がない、夢物語の、嘘八百の御伽噺。
あの霧の深い夜、家に帰り床に就いたそのあとから、私は今、あなたたちが暮らしている世界とは、別の世界へ転移することが可能になった。パラレルワールドという言葉はご存知だろう。例えば今、目の前の赤信号を守り、青信号になるまで待ってから道路を横断した場合と、車通りの少ないことをいいことに、赤信号を無視して渡ってしまった場合で、その後に自分自身の命運が大きく変わる可能性はゼロではない。私たちはみな、その無数の選択肢を毎分毎秒前にし、合意不合意を問わず選び取りながら生活を営んでいるのであり、それによって〝選ばれなかった方〟の世界線が無数に生まれていく。
通常ならば、その世界線には、その世界線毎に別の「私」がいて、その「私」が行動し、遭遇し、見聞きする出来事は、その世界線の「私」の記憶でしかない。しかしあの夜から、私は全ての世界線の「私」の行動、記憶を知ることができる。私は都市伝説を利用することで、全ての世界線を自在に転移することができるようになった。
しかし、私が今存在しているこの世界線で、私の目的が果たされないことが確定した瞬間に、私は死ぬ。正確には、私という存在自体が、その世界線から消滅する。
私の目的のためには、新しい協力者が必要だった。その協力者はすぐに見つかった。彼は幼い頃、神に仕える聖職に就いていた。村のほかの子供らは持たない凶暴なまでのとある能力と、凶悪なほどに美しい容姿を見初められ、否、彼の異常な才覚を恐れた両親に半ば勘当されるように、彼は村で唯一の神社に預けられ、日々粛々と神職に励んだ。当時の彼にとって一番の楽しみは、月に一度行われる例大祭での稚児役だった。お囃子や縁日の賑わいに誘われて集まった村の人々を前に、錦の着物を着せられ、美しい紗幕に飾られた舞台の上で厳かに舞を披露する。自身よりも余程容姿の優れない巫女たちを従えて、手にした鈴をちりん、ちりんと鳴らすたび、まるで世界中の人間が、自分を介して神様を拝んでいるような、恍惚とした気持ちになれたと彼は語っていた。
大人になり、村を出た彼は、かつての私と同じように仲間とともに作品を作り、それを披露して糊口をしのぐようになった。美しく才能のある彼には同様に才能のある仲間がすぐに付き従うようになり、彼らが作る作品は人々の心を慰め、熱狂を呼び、彼は一躍地位と名声を欲しいままにすることとなった。
しかし、このとき、かつての彼のように、神の使いとして人々を熱狂させていたのは、彼ではなかった。彼の仲間たちの中には、その頃の彼よりもずっと美しく、華やかで、凶悪なまでに存在感を放つ人物が存在していた。彼は致し方なくその人物を依り代として表現活動を続けていたが、じきにその人物は、彼のもとから独り立ちしたいと言い始めた。今まで彼が作った作品を散々道具にして神の使いとしての地位を確立してきたというのに。ひとりでは、なにひとつできないというのに。彼はその人物を、断罪すべき裏切り者とみなした。彼と仲間割れをした後、その人物は自ら命を絶った。
否――彼が、その凶暴な才能を行使し、その人物を死へと追いやったのだという。
それからの彼は、仲間たちに見切りをつけ、孤独な旅を始めた。それまで隠し通してきた凶暴な能力を利用し、他者を意のままに操り、時に目障りな人物は全て、己の視界の外へと追いやってきた。しかし彼は不安だったという。自身の容姿が、かつての凶悪なまでの美貌を失い、十人並の男へと変貌してしまうのが恐ろしかったという。
彼は自身の容姿を若く保とうと目論むような、惨めな行為には手を染めなかった。自身の代わりに、人々に神の意思を伝える依り代を新たに探し出す旅を続けた。美しく才覚ある依り代を見つけ、擁立するたびに彼は大成功を収めた。彼は一度地に落ちかけた地位をふたたび手にし、富と名声を振りかざしてさらに自身の存在を大きくしてみせた。彼とともに成功した依り代は、その美しさと才能に酔い、彼の前から去ろうとしたが、彼はそのたびに依り代の足を奪い、翼を奪い、名声を奪い、時には命さえ奪った。それは重大な裏切り行為だからだ。
これまでに出会った依り代たちは、不完全だった、と彼は語った。所詮は卑しき肉体を有する人間に過ぎず、自身の目的を果たし続ける道具にすらならなかった、と。彼は私の目を見て、震える指で手を握り、囁いた。君は違う。君なら、僕の神様そのものになれる。
彼にそう言われたとき、私は、今すぐ消えなければ、と思った。
この世界線の私を、今すぐにでも殺さなければ。
私が世界線を転移し、叶えたい目的は、私が身を寄せていた仲間たちを、成功へと導くこと。彼らにしか生み出し得ない芸術を育む彼らの存在が広く知れ渡り、人々の心を慰め、熱狂を生み出す。その瞬間に、できれば同じ舞台に、私も立ちたいのだ。
しかし、私が元々身を置いていた世界線では、それは叶わない可能性が高かった。彼らのうちひとりは同業者である私の才能を買いかぶり、自分自身は身を引いて私を表舞台へ立たせた。もうひとりは自分自身の才能を過小評価していた。さらにもうひとりは――私の隣に立っていたはずのもうひとりは、足並みを揃え、同じ方向を向いていたはずなのに、気がつけば私に嫉妬のような感情を向け、対話することを避け、心を閉ざしてしまった。
こんなはずではなかった。私は、彼らと出会い直したかった。全く違う人物として、彼らと関係を築き直したかった。そして、夢見たはずの舞台に、ともに立てればと、そんなささやかな望みをあの霧の深い夜の街に込めたのだ。
このままでは私の望みは、彼の野望の一部として呑み込まれてしまう。それを避けるためには、私が望んだはずの目的を私自身の手で完膚なきまでに壊すしかなかった。はじめは彼と何度も対話をした。話せばわかってくれると思ったのだ。しかし、彼の野望は根が深かった。私を意のままに操り、自分だけのミューズとすることしか考えられず、そのために凶暴な能力を行使していた。私は、かつての仲間たちの夢を壊滅させ、自分自身を消滅させた。ほかの世界線へと転移し、ふたたびそこから別の人物として、仲間たちと出会い直す。
しかし、彼からは逃れられなかった。どの選択肢を選ぼうとも、私が目的を果たそうとするたびに、彼が目の前に現れる。私はそのたびにかつての仲間たちの夢を自ら壊し、別の世界線へ転移し、やり直そうとした。彼を殺そうとしたこともあったが、その凶暴な能力によって阻まれてばかりだった。
もう、何人の私を殺しただろうか。何度、彼らの夢を壊しただろうか。数えきれない。私の手には既に抱えきれないほどの苦悩があって、私ひとりの力ではどうしようもなくなっていた。
ほんの出来心だった。まるで、七夕の星に願いをかけるようなものだった。人として叶えたいと望んだそれへの代償は、私を人の姿に留めてはくれないようだった。
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