第3話 ラブロマンスは現実と混同する
恋愛映画の映像は、どこかぎこちなさを感じながら物語を進めていった。嫌気がさすくらいに甘さを詰め込んで、恋愛要素を入れましたよ~と言うようにわざとらしく日常を進めていった。
物語を中盤に差し掛かっていくとその甘さは、曇り始め雨を降らせるための前準備を始めていた。言葉を紡いでいく演者の白々しい嘘とアドリブであろう、言葉が甘美なものを腐らせていき、やがて主人公とヒロインは言葉を鋭利な武器として心を壊していく。
やがて心を通わせていた2人には修復不可能な罅が無数に入り、気が付けば主人公はヒロインを飛び降り自殺させるための計画を立て始める。
言葉だけでなく、暴力により脳内を恐怖で埋め尽くし、信頼していた恋愛感情を壊すために、他の女を抱き、恋人の親友を犯し、周囲の味方を廃人にさせ、まともな思考をさせないようにさせた。
とどめに言葉と脅しによって自殺を幇助させ、物語は終わるように見えていた。しかしその物語は返すようにヒロインも主人公と全く同じ行動をしていた。飛び降りる瞬間に主人公の足首を掴みそのまま落下していった。お腹にはまだ間もない命を抱えながら。
エンドロールが流れると同時に一樹は日向の横顔を眺める。彼女は何処か心をここに有らずのような状態でキャストの名前を見ていた。一方彼は、この映画に対して嘘で塗り固めた現実ではありえないつまらない創作と心の中で溜息をついた。
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「何か、すごかったね♪」
「………そうか?俺には典型的な鬱映画にしか見えなかったけど。」
「そう?でも、こういう愛って面白いよね♪」
「分からないな。」
「えぇ~、宇野君はまだお子ちゃまだねぇ~。」
「それを言ったら、鷲宮も十分子供だろ。」
「今は年齢の話をしてるんじゃないですぅ~♪」
けたけたと屈託なく笑う日向に、気まずそうに頬をかく一樹。月夜の道を歩きながら、映画の感想戦を始める。お互いの価値観は違いながら気づけば弄り合いに発展していた。
「でも、いいよねぇ。」
「ん?何がだ?」
「こういったさぁ、嘘で嘘をつき合って狂い合えル恋ってさ、最終的に死んだ後に結ばれると思わない?」
「………」
「そうしてさぁ、信頼してる人から裏切られるってとてもつらいと思うの!でもね、その裏切りがあるからこそ、美しく、気高くなるんだよ。だからこそ、私もこんな恋、してみたいなぁ♪」
日向の言葉に一樹は返答もせず、隣を歩く。彼女の眼には彼は写っているのか分からない。しかしその妖艶な笑みに自身の感情はぐちゃぐちゃに混ぜられていた。
ラブロマンスは現実と混同してはいけない。ただの痛い奴だと。制止する。しかし想いは一瞬で形成されていく。
それが地獄への片道切符とは知らずに、その恋へまい進していく。
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