第5話 魔法訓練は一日にしてならず
案の定、家にしょんぼりして帰ったら、セリーナに笑われた。
「一日で魔法が使えるようになると思っていたとはね! ゾーイは、馬鹿じゃないか?」
腹が立つけど、食事の用意をする。だって、セリーナの料理は、ゲロマズだから。
赤ちゃんの時は、メリーの乳だけで満足していた。幼児期は……ゲロマズの麦の粥を……ああ、思い出したくもない。
あの頃、食事の時間が苦手だった。お腹は空いているのだけど、ドロドロのお粥の中にダマがゴロゴロあって……生煮えの時もあるし……。
だから、自分で料理できるようになった時は、こんなにお粥って美味しいんだ! って感激したんだ。
あの日、セリーナが起きてこないから、見よう見まねでお粥を作った。暖炉には火が残っていたからできたんだ。
それから、ずっと料理は私がしている。元々、料理が苦手だったセリーナは、これ幸いに手をひいたからだ。
六歳児に家事をさせるのって、前世の記憶からしたら幼児虐待だ! って騒ぐ気持ちを抑えて、夕食の支度をする。
今夜は、セリーナが仕留めたビッグボア! これを捌くのって大変だと思うのだけど……セリーナは収納魔法を活用して、獲物を肉、骨、毛皮、そして一番お金になる魔石に分けている。
この魔法も、絶対に身につけたい! はぁぁ、魔法が使えるようになるかはわからないけどさ。
「セリーナ、私が赤ちゃんの時に魔法を封印したのが解けていないんじゃないの?」
パントリーから取り出したビッグボアの肉の塊を薄くスライスしながら、セリーナに質問する。
「そんなわけないだろう! 私は偉大な魔女なんだから。ゾーイが鈍臭いだけだよ」
長椅子に寝っ転がって、本を読みながら、私を罵る。
ふぅ、私をこの家の前に置き去りにした人に、もっとまともな人の所に置いてくれ! と文句を言いたい。
でも、捨てられた赤ん坊を育ててくれたのは、セリーナなんだ。だから、真面目に塩を適量振って、暖炉でフライパンを温めてから焼く。
夕食は、ビッグボアのステーキと朝作ったお粥を温め直したのだ。
普段は、朝にお粥を作ったら、昼も、夜もお粥だ。
これに、メリーの乳を入れたり、塩の代わりに、セリーナが取ってきたキラービーの蜂蜜を入れたりする。蜂蜜は、とても甘くて、滅多に手に入らないご馳走なんだ。
「明日も魔法の練習をするんだよ」
食事の後片付けをしていたら、セリーナに言われた。これは、ちょっと言いたいことがある。
闇雲に、魔法を唱えるだけでは、魔法を使えるようになるとは思えないんだよね。
「セリーナ、魔法の使い方をちゃんと教えて下さい」
キチンと、セリーナの前に立って、頭を下げて頼んだ。
セリーナは、相変わらず長椅子に寝たまま鼻で笑う。
「魔法は、自分で努力して身につける物なんだよ。少なくとも、一ヶ月は頑張ってから言うんだね」
ううう……全く魔法が使える気にならないから、頭を下げて頼んだのに!
「セリーナの意地悪!」
そう言い捨てて、自分のベッドに潜り込んだ。腹が立って、眠れそうになかったけど、ぐっすり眠ってしまった。
✳︎
夢の中で、私は前世にいた。どうやら、七歳よりは大きいみたい。
家族に囲まれて、毎日学校へ通っている。
『良いなぁ』
家族って憧れる。セリーナは、育ててくれたけど……お母さんじゃない。メリーは、乳はくれたけど……勿論、山羊がお母さんじゃないのはわかっている。でも、セリーナより暖かいし、抱きしめても叱らないから……もっと幼い頃は、お母さん代わりだったんだ。
これって、かなり悲惨な幼児期だと思う。
前世の私は、両親と兄弟がいる。お姉ちゃんと弟だ。それに、毎日、毎日、歌を歌って過ごしている。
『それで良いの?』
学校で勉強するのが仕事なんだろうけど……本人は、歌を歌って暮らしたいと言っている。
『吟遊詩人になるのかな?』
まだ、十歳程度までしか記憶の封印も解けていないから、前世の私が『アイドル』と呼ばれている吟遊詩人になれるのかはわからない。
ただ、学校の勉強より、家でピアノと呼ばれる楽器を弾いたり、歌を歌ったり、ダンスしている方が生き生きしているのは分かったよ。
『あちらには、いっぱい曲があるんだ!』
言葉は、こちらの世界と違うけど、曲がいっぱいあるのは嬉しい。
私も、セリーナの鼻歌から聞き覚えた歌を歌うのが好きなんだ。
封印されていだけど前世の影響なのかも? アイドルとかは、よくわからないけど……吟遊詩人はこちらでもあるとセリーナが言っていたから、魔女になれなかったら良いかも。
『いつか、大きな町に行って、吟遊詩人の歌を聞きたいな』
薬草を採って、それで楽器を買いたい! 吟遊詩人の歌を聞きたい!
全く、魔法訓練とは関係ない事を夢の中で考えていたからじゃないだろうけど、全く魔法は使えるようにならなかった。
どうすれば良いのだろう! 毎日、魔法を唱えているけど、木の枝一つも集まらない。
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