【悲報】ポエミーくん、女子にだまされ対魔部隊に入る。サラリーマンのポエム生活は一転、魔物討伐に。そして詩人は最強へ ←本人望んでない  ⌘ 詩魔|ポエトリーデーモン

森野 曜衛門

Poetry1 詩のサークルと魔物

第1話 サークル女子は塩対応で

 詩を創ろう……

 頭のなかに声が響いた。居眠りしてたんだ。


 ここは地場産センターの会議室。百人ばかり出席者がいた。

 会議の名称は「テロ対策装備の調達に関する説明会」だった。


 俺の会社では防衛装備品も扱っている。銃とかじゃない。主に衣類やヘルメットといったものだ。俺の三課で扱うものじゃないが、会議に出るように上司に言われたのだ。暇と思われてるのがムカつく。


 テロ対策——そう、最近テロが頻発している。発生すると退避命令が出て面倒だった。


 ともかく、これはパワポの資料を読み上げるだけの会議だ。

 配っとくだけでいいっての。ほんとこんな会議、無駄。


 どうでもいい会議で寝るのは得意だ。よく国会で寝ている議員が叩かれてるが、会議ってのは仕事のほんの一部でしかない。

 会議で寝る人間を批判する奴らは知らない。くだらない会議は五時で終わるさ。それからガチの仕事が始まんのよ。


 ふう。

 まだ会議は終わらない。外を眺める。

 そうだ詩を考えよう。



  寝ぼけ顔の会議室


  ここにぼくはいない

  ぼくがいるのは あの雲の上


  ふわふわの羽根布団に寝ころんで

  空はもう夕ぼらけ


  光ほどけて 溶けゆかば

  ぼくも ぼんやり ぼやけて ぼけて


 よしっできた。

 うふ。うふ、ぐふふっ。詩の神が舞い降りたな。


 なぜ詩を作るんだって?

 ムカついてるからさ。クソみたいな会社員の境遇に。

 大袈裟に言うなら自由ってやつだ。詩を創作しているときだけは現代の契約奴隷は解放される。

 詩は日々を慰める俺の抵抗だ。サラリーマンはそれで救われてる。


 終了時間が来て会議室から吐き出された。廊下で看板が目についた。


 えっ⁉︎


『詩のサークル』とあったのだ。


 俺は一人で詩をやっていた。この趣味は他人に理解されない。でも同好の仲間がいっしょだったら、もっとずっと楽しい気がする。


 それに、もしかしたら詩集を小脇に抱えた女子とかもいたりして。たとえば、素敵な萌え声で自作の詩を朗読し照れたように微笑むんだ。

 うんうん。そう、こういうのでいいんだ。うふ、ぶふふっ。

 サークルかあ。よしっ。


 意を決してドアを開ける。


 会議テーブルを囲んで部屋にいたのは二人の女子だった。

 うそっ! ほんとにいるじゃん⁉︎

 座って頬杖をついている娘はメガネをかけていた。ニコッとした。


 もう一人、ホワイトボードの向こう側に腕組みして立っている女子は、手足がやたら長くてモデルみたいだ。び、び、美人だ。俺の人生においてまるで接点がなかったタイプの女性じゃないか。


 俺は彼女がいない。けれど詩を愛するという共通点があれば会話とか弾んで、ワンチャン、こんな美人ともなにかあるかもしれない。ドキドキしてきた。


「なにかご用ですかぁ?」

 メガネの娘が声をかけた。声が可愛いぞ。


「えと、そっ、その…… サークルに入りたいかなあなんて、あはは」

 俺の声はうわずっていた。変な汗が出てくる。


「わぉ! こ〜れ〜はぁ〜 想定外ですよぉ」

 メガネの娘は妙に間延びした大袈裟なリアクションだ。


 なぜ想定外? まあ詩のサークルに希望者は来ないかもしれないけど。


「はあっ? あんたふざけてんの! 舐めたこと言うと、こっから叩き出すわよっ!」

 モデル風の美人はなぜか喧嘩腰だった。


 詩のサークルに入ろうとしただけで、なにこの理不尽。

 ん? 理不尽な美人…… 韻が踏めるな。


「どうしましょぉ~ むむむぅ」

 メガネ女子は首をメトロノームのように左右に振って考え込む。


「どうもこうもないっ。これ以上余計なメンバー増やさんでいいっつーのっ」


 も、揉めてるぞ。


「ごめん。遅れちゃった」

 ドアが開いた。


「あれっ? 雨森あまもりくん?」

 丸顔のショートカットは同じ会社の総務の小宮山こみやま福乃ふくのだった。

 可愛いい大きな目をぱちくりさせ、不思議そうな顔をしたのだ。


 温厚な性格と頼りになる仕事ぶりで、管理職から同僚の女性まで慕われている。丸っこい童顔は男性陣にも人気があった。狙ってる男も多い。

 みそっかすの三課の社員には恐れ多くて、あまり話したことはなかった。


 けど、こんなところで偶然に一緒になるとは!

 詩のサークル……やっぱり、これは運命じゃないのか。恋の予感が確信へと変わる。俺、雨森敦史の恋がいま始まるのか⁉︎


「ご、ごめんなさいっ! 別に雨森くんが嫌いとかいうわけじゃないんです。でも私、どうしても男性とは、おつきあいできないんです。ごめんなさい」


 始まらなかった。瞬殺だ。

 ってかまだ告ってもないんだけど……


「だ、だめです。そんないきなり来て好きとかだめですから。雨森くん、と、とにかく、おち、おちおち、落ち着いてください」


 アタフタしている。丸い顔を真っ赤にして。

 いやいやいや、おまえが落ち着けい。


「いったん落ち着こう、な。そもそも俺はまだ言ってないぞ」

「え、あ? え?」

 モテる女子ゆえの誤解だろうか。そりゃ告れるもんなら告りたいけどさ。


「えっ、違うの? だって一昨年の忘年会で私のことタイプだって」

「うえっ、な、なぜ知ってる」


 今度は俺が焦る番だった。温泉泊まりの忘年会——深夜に風呂に浸かりながら男同士、会社の誰が好みか話したことは確かにあった。


「加藤くんから聞いたよ、飲み会で」

 あんの野郎〜 加藤は後輩で女受けするタイプだった。飲み会ざんまいの野郎だ。人の秘密をべらべらと。


「とっ、とにかく違う。そもそも小宮山がこの詩のサークルにいるなんて知らなかったし」

 俺の言葉に福乃はすんっとなった。

「なんだ。あーもう、恥ずかしいよ。まったくもう。ごめんちゃい。えへ」


 誤解が解けたようだ。ちょっと悲しい気もするが。まだ女子はいる。てか詩のサークルが目的なのだ。そこ、履き違えちゃいけないぞ、俺。


「リーダーの知り合いですかぁ?」

 メガネが福乃に聞く。どうやら福乃はサークルの部長らしい。なら鶴の一声で入れてもらえるかもしれない。


「同じ会社の営業の雨森くん。でもじゃあ、なぜここに?」

 なぜって……

「詩が好きだから」

 声が小さくなる。


「キモっ」

 モデル風が言い放つ。


「詩のサークルで詩が好きって言って、どうしてキモいって誹謗されるんだよっ!」

 思わず叫んでいた。


「このポエミー野郎、どうせ、くっだらないポエム作って、デュフフとかキモ笑いしてんのよ。あーキモいキモい、キモ過ぎっ」


「ぜんぜんっ違うわっ!」 ←そんなに違ってない


 くそ、キモいキモいって、ふだん女子から言われてる2週間分くらい言われたじゃないか!

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