第4話 他県から来た倉庫作業員

「へぇー! Vシネマみたいな話やな」

「いや、相手は本職だが」

 坂田は、ウィスキーで顔が真っ赤になっている島田にヤクザとのやり取りについて話をしていた。

 酒が欲しくなる八月の午後七時。この時期は、阿波踊りのイベントがあってか、他県から五万人以上の観光客がやってくる。周りの店にとっては、売り上げを多く得られるチャンス。『うちの店でサービスしますよ!』や『二時間の食べ放題で一人二千円! どうですか!?』と従業員が看板を持ちながら、客を捕まえようとしている。

 坂田も好機のはず。が、彼にとっては、どうでもいいこと。生きていくだけの収入があればいいのだ。客がたくさん来れば、対応しきれない。それらが理由。

 島田と言葉を交わしていくと、ドアのベルが鳴った。二人が反応する。

「おー! こんな路地にセンスのええ店があったとはな」

「大丈夫ですか? 柴田さん。高そうな酒が並んでいますけど」

「誠。お会計は、柴田さんに払わせておきなさい」

「ひどいわ! 明美ちゃん」

 現れたのは、柴田と呼ばれた黒のツーブロックの中年男性。誠と呼ばれた黒の短髪をした爽やかそうな若い男性。そして、明美と呼ばれた黒のおかっぱで知的な印象を与える眼鏡の若い女性だ。

「いらしゃいませ」

 坂田は、深々と三人の頭を下げた。

「おっ! すまんな! 営業中でっか?」

「はい。どうぞこちらへ」

 坂田が、彼らにカウンター席に座らせた。

「店員さん。この店、雰囲気が上品ですね。繁盛しているでしょう?」

「いえ、そんな事はございません。毎日、暇ですから。やって来るのは、近くに住む人間と嘘ついて、早退するバカ者ですから」

「マスター、ワシの評価を下げるのは、勘弁してくれないか」

 坂田に目を細めながら、呆れた顔つきで言われた島田は、ガハハハッと高笑い。誠の隣にいた明美は、彼に汚物を見るような目を向けていた。

「まぁ、それはさておき。お三方は、どういった関係で?」

「はい。僕達、東京にある本の会社で倉庫作業員と事務員として、直営している各店舗に出荷しているのです」

「おぉー! 兄ちゃんら、東京から来たんかいな」

「はい。で、本社からの辞令で、蔵本にある徳島支店に異動になりまして」

「転勤ですか」

「はい。僕は倉庫作業部の部長で、柴田さんは次長。で、明美は、経理部の部長として働いていますが」

「そうですか。見るかぎり、皆さんの体と顔つきから覇気が伝わってきますよ。汚れたかつ淀んだ空気しかない街では、目立ちますね。ところで、ご注文は?」

 誠が両手で叩き、目を大きくする。

「あ、そうでした! 申し訳ない! おすすめは?」

「そうですね。ジャックダニエルとかどうでしょうか?」

「じゃ、それにしようかな」

「私は、誠と同じでお願いします」

「ワシは、響にするか。誠のおごりで」

「そこは、貴方の分は、貴方が払ってください」

「くぅー! 冷たいのぅ! 明美ちゃん!」

 坂田は、誠たちの注文を聞くと、グラスを彼らの前に置く。注文された酒を注ぐ。

「おぉ! やっぱ、バーで飲むウィスキーは、格別やな!」



 それから、坂田と島田は、すっかりと彼らと会話を楽しむようになった。坂田は、久しぶりに常連客以外とのコミュニケーション。いつも、同じパータンしかないトークをしながら、話をしていた。が、県外出身である彼らと交流をしていると、程よい清涼の風を浴びる感覚に覚えた。坂田の表情筋が緩んでいく。

「え! この兄ちゃん、問題児に後ろから刺されたのか!? 彼女さんの前で」

「えぇ、あの時、僕の人生が終わった思いましたよ」

「でも、奇跡ですね。生還出来たのは」

「えぇ、明美の愛のパワーって感じですかね」

「ちょっと、恥ずかしいじゃない!」

「あぁ! やば! 明美ちゃん、誠。もう十時や! 明日、朝五時起きなあかんで!」

「やばいですね。すみません! 私たちは、失礼いたします。お会計をお願いします」

「分かりました。三千五百円となります」

「では、これで」

 誠が自分の財布からクレジットカードを取り出す。受け取ると、支払いの手続きに移る。

「ありがとうございます。では、お返しいたします」

「はい。楽しい会話してくれて、ありがとうございました!」

「いえいえ、では、またのご来店をお待ちしております」

 誠らは、顔を赤くしながら、店を出た。

「誠という兄ちゃん。美人と結婚出来るなんて、羨ましいな。……あ、そういや、とはどうしているんや?」

 島田の言葉に、坂田の表情が無になった。

「もう、それはやめてくれ」

「本心は、よりを戻したいやろ? だって――」

「俺は! 彼女とはどうでもいいんだぁ!」

 坂田は唾を飛ばしながら、窓ガラスが割れそうな大声を出した。

「そ、そんな声を出さなくても」

「お、俺は、彼女と会わないと決めたんだ。



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