第3話 あ、私。村から一歩も出ないんで結婚はできません。

 王子様はこの村で唯一の医者を呼んで治療してもらう事にした。


 あとは医者に任せて、私はご飯を食べる事にした。


 変身を解除し、チュプリンと並行して歩きながら家に帰る。


「今日の戦いはなんかあっさりだったね」

「戦闘にあっさりもこってりもないでしょ」

「でも、昨日に比べたら何か歯ごたえがなかったっていうか……うーん、何だろう」

「あなたいつから戦いのプロになったの?」

「いや? 牧場の娘だけど?」

「あ、そう」


 なんてどうでもいい会話をしていると、家に着いた。


 ドアを開けると、大勢の猫達が出迎えていた。


「おー! ニャーイ、ニャーヌ、ニャーメ、ニャーナ、ニャーニャ、ニャーロ、ニャーマル、ニャーハ、ニャース、ニャーチャ、ニャーキチ、ニャート! ただいま〜!」


 モフモフの猫達に囲まれながら幸せな気分に浸っている一方、チュプリンはドアの前で震えていた。


「フニャー!」


 すると、ニャーチャが彼女に威嚇してきた。


「こら、怒らないの」と注意すると、ニャーチャはそっぽを向いてどこかに行った。


 チュプリンは恐る恐る中に入っていった。


 猫達は一斉に彼女を睨んでいたが、それ以上は何もしなかった。


 うんうん、本当によくできる子達だ。


 私は猫一匹一匹に撫で撫でした後、朝ごはんを食べに行った。



 さて、美味しいパンとスープを食べた所で、私の部屋でチュプリンの話を聞く事にした。


 けど、なんか難しい話だったので、簡潔に分かりやすくまとめる事にした。



①魔王が人間を苦しめています! このままだと世界が滅ぶかも?

②だったら、魔法少女に変身できるアイテム(あのボール)を使えば、魔王を倒せるかも! 

③でも、誰がやる? そうだ! 人間だ!

④その役目を任されたのがチュプリンで、魔王と魔物と戦える魔法少女がいないか、妖精の国から人間の世界にやってきた。

⑤それで私を見つけて今に至る。



 まぁ、何はともあれ、私は勇者になったというわけだ。


「それで私はどうすればいいの?」

「魔界に行って魔王と戦って欲しいの」

「マカイってどこにあるの? 村長の家の裏?」

「そんなすぐ近くにある訳ないじゃない。たぶん馬車を走らせて何日かかるか……」

「えぇ〜〜? 村から出ないといけないの?」

「まぁ、いずれそうなると思うけど……どうして?」

「急な配達が来たらどうするの?」

「配達より世界平和じゃない?」

「いやいや、配達よ」

「いやいや、世界平和よ」

「でも……」

「モプミ〜! シャーナちゃんが遊びに来ているわよ〜!」


 チュプリンと話をしている途中で、お母さんに呼ばれてしまった。


「ごめんね、続きは後で!」

「あ、ちょっと!」


 私は小走りで部屋を飛び出した。


 階段を駆け下りると、玄関にシャーナが立っていた。


「シャーナ! やっほー!」

「モプミちゃん! 大変だよ!」


 シャーナは鼻息を荒くしていた。


「どうしたの?」

「カーチェスさんの診療所にめちゃめちゃイケメンの王子様がベッドで寝ているって村中大騒ぎで……見に行こう!」


 すぐに今朝助けた王子様の事だと直感した私はシャーナと一緒に診療所に向かう事にした。



 診療所は大勢の村人達でいっぱいだった。


 もう王子様を見たくてたまらないといった様子で、なんかしっちゃかめっちゃかだった。


「通してください! 通してください!」


 若い男の声が群衆の間から聞こえてきた。


 村の若い女性達が黄色い声を上げていたので、間違いなく王子様だと思った。


 王子様は御者ぎょしゃと共に出てきた。


 かなりもみくちゃになったのだろう、髪がボサボサになっていた。


 しかし、また村の若い人達に囲まれてしまっていた。


 どうにか出てきたが、また囲まれて……を繰り返していた。


「王子様! あ、見えなくなった……と思ったらまた出てきた! また見えなくなった……」


 シャーナは彼が出てくる度に嬉しそうな顔をしていた。


 すると、王子様が私と目が合った。


「おぉっ! 運命の人!」


 すると、どういう訳か、王子様が駆け寄ってきたのだ。


 誰だろうと思っていたが、私の前でひざまずいていた。


「……え?」


 なんだ、なんだ、何が起きるんだ。


 王子様はジッと私を見つめながら言った。


「僕はマルゲリータ王国からやってきたマルチーズ王子と申します。今朝はミノタウロスの魔の手から救ってくださり、ありがとうございます。あなたに一目惚れしました! どうか僕の花嫁になってください!」


 これに村中が「ええええええ?!」と叫んでいた。


「うぇええええええええ?!」


 私も彼らに負けないぐらい叫んだ。


「へぇえええええええ?!!! けっこぉおおおおおん?!」


 すると、私以上にシャーナが馬鹿みたいな声を上げて叫んだ。


 私は返事に戸惑っていた。


 まさか王子様に結婚するなんて……昨日までの自分だったら想像もつかない。


 けど、大事な事を聞かないと。


「マルゲリータ王国ってどこにありますか?」

「……え?」


 予想外の質問だったのだろう、王子様は目を丸くしていた。


「えっと、あ……王国ですか? 馬車を走らせたら数日は確実だけど」

「あー、めちゃくちゃ遠いんですね。じゃあ、いいです」


 私が拒否した事で、村人達は驚きの声を上げた。


「モプミちゃん!」


 シャーナが私の両肩を掴んで血走った眼で見てきた。


「何を考えているの? 王子様と結婚したらお姫様になるんだよ?!」

「だって……結婚したら一生シャーナに会えなくなるじゃない」

「も、モプミちゃーーーーん!!!」


 この言葉に親友は目に涙を浮かべて抱きしめきた。


 王子様は困惑していた。


「おいおい、どうなっているんだ〜〜?」


 すると、いきなり汚い声が飛んできた。


「お、オークの群れだーーー!!」

「なんで俺らの村に!」

「駄目だ! 早く逃げないと!」


 たちまち村人達は逃げ出してしまった。


 残ったのは私とシャーナ、王子様、御者と馬車が残っていた。


 オーク達は村人達の悲鳴を嬉しそうな顔でゾロゾロと闊歩かっぽしていった。


 その中に眼帯を付けたオークが群れの中から出てきた。


「俺の部下が村に行ったきり戻ってこないと思ったら全然無傷じゃねぇか……アイツは何をしているんだ?」


 眼帯オークは辺りを見渡した後、私達を見た。


「よう。人間ども……何か知らねぇか?」


 その眼光の鋭さに私も含めみんな固まっていた。


「モプミ!」


 すると、チュプリンがボールを咥えながらやってきた。


 あ、そういえばあのボール部屋に置いてきたままだった。


 そう思っていると、白猫が投げてきた。


 今度はうまくキャッチして呪文を唱え変身した。


「さぁ! どんと来なさい!」


 私は拳を突き上げて、奴らを挑発した。


 すると、オーク達が大爆笑していた。


「おいおい、こんな小娘に俺達を倒すだって?」

「馬鹿にしてんのかよ?」

「アハハハハハハ!!!」

「ギャハハハハハ!!!」


 オーク達は笑い続け、転げまわっていた。


 しかし、笑い過ぎたのだろう、咳き込んでいた。


 中には笑い過ぎてそのまま力尽きた者もいた。


 これに私はピンと来て、「ポポポ!」と笑い続ける呪文を唱えてみた。


 すると、オーク達はさらに大声を上げて笑い出した。


「ハハハハハ……やめ、やめハハハハハ!!!」

「ギャハハハハ……ぐる、ぐるじぃはははは!!」

「も、ハハハハ! だ、ダハハハ!!!」


 オーク達は笑って、笑って、笑いまくった。


 そして、ほとんど笑い死にした。


 残ったのは眼帯を付けたオークだけになっていた。


 笑い過ぎで顔がグシャグシャになっていたが、彼は腹を抱えながら立ち上がると、「ま、まずい……にげ……にげないと」と言って走り出した。


 私はトドメをさそうか迷ったが、逃げ出す背中に向かって攻撃するのは卑怯だと思ったので止めた。


 眼帯オークはそのまま村の外へ出ていった。


 ふぅ、何とか村の安全は守った。


「あ、王子様、無事……あれ?」


 私は彼の事を思い出して振り返ったが、どこにもいなかった。


 御者も馬車もいなかった。


 どこに行ったのだろうと思ったが、それよりも解決しないといけない問題があった。


 このオークの死骸達、どうしよう。

 

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