第3話 2人目の犠牲者。
2人目の犠牲者が発見された。
また手足に顔のパーツ、そして歯が無かった。
森林樹は「君といる為に手伝う」と言ってくれて、すぐに身元は割れた。
今度の被害者は桧山岳人。
運送業に従事していて、やはり歯科医への通院歴があった。
容疑者は歯科医に関係する人間だと思ったが、住んでいる土地も仕事も歯科医も違っている。
「それよりも違うのは見た目だよ」
森林樹はパソコンの画面に緒方翔伍と桧山岳人の写真を出して見せる。
そう、身長、体格、容姿、全てが違っていた。
これが色恋沙汰なら共通点も出るが、それもない。
「でも共通するのは女性遍歴の多さですよね」
そう、桧山岳人も緒方翔伍に負けず劣らず、女好きで、彼女のいないフリーのタイミングがなく、常に二股三股をしていた。
「別々なんでしょうか?」
「手口は一緒だからそれはないはずだよ。ただこう言ってはよくないが、桧山岳人は発見が早く食い荒らされていない。だから調べて欲しい事があるんだ」
翌日、私は森林樹に言われた事を花田先輩に伝える。
付き合った報告をした時に物凄い顔をされて、「深入りするなよ」とまた言われたが、「始まったものは仕方ない。アイツの非常識さを知って、別れたくなったら俺に言ってくれ」と言ってくれて、少し話をした。
森林樹は親の財産もあるが、それ以上に大人になって始めたデイトレードで、既に一生分を稼いでいて、働かなくてよい身分になっていた。
「それもこれも、アイツの捜査に使えるスキルと一緒なんだがな」
「スキル?ですか?」
花田先輩は困り顔で頷いて教えてくれた。
「アイツは年がら年中考えているんだ。生きている中、生活をする中でも、常に考えを巡らせている。それは自身を残して死んだ家族の気持ちや、愛について考えているんだ。そっちは答えが出ないが、それのおまけで沢山考えてあり得そうな事を組み立てるんだ。だから売り買いするデイトレードも犯人探しもやれちまう」
だから口癖のように「予想」という言葉を使うのかと納得をする。
そしてそんな森林樹が調べて欲しいと言ったのは遺体の切断面、欠損部分だった。
右腕と顔の数箇所の傷は死亡前で、残りの傷は死後つけられたモノだった。
私はそれを森林樹に告げると、「成程。気になるな。逮捕前に会って聞くしかない」と言って立ち上がる。
そして「花田を呼んで」と言った。
・・・
訝しげに現れた花田先輩は「何の用事だよ?」と藪から棒に聞く。
「犯人の目星がついたから一緒に出かけたくてね」
突然の事に花田先輩は「何!?」と聞き返し、私は「森林さん?」と聞いていた。
「まあ、まだ目星だから期待しないでいいよ」
「ったく、お前の目星は大体大当たりだろ?」
悪態をつく花田先輩に、森林樹は「買い被りすぎだ」と言い、緒方翔伍と桧山岳人が治療に行っていた歯科医へと向かった。
二つとも違う街にあって移動が大変だったが、なんとか1日で2か所を回る。
どちらの歯科医でも一般的な取り調べは行われていて、歯科助手の人や受付事務の人は再訪を迷惑そうにしたのだが、森林樹が「被害者の方と…、合コンを…されましたよね?」と聞くと数名顔色が変わる。
顔色を見て合コンがあったことを察した花田先輩が、「何故言わなかったんですか!?」と声を荒げる。
受付事務の人が答える前に森林樹が「過度の接触は禁止されていますし、言えませんよね?まさかそんな相手が行方不明になってしまって、あんな事になるなんてね?」と言う。
真っ青になった受付事務の人は「…はい。あまりにしつこく誘われてまして、断れませんでした。一度だけだし、その後すぐにいなくなった訳では無かったので…」と答える。
彼女たちは問題なしと自分に言い聞かせて誤魔化していた。
受付事務の人に「署まで」と花田先輩が言ったところで、森林樹は「でも、携帯も何も出てこない、証拠も出てこないなら、皆の迷惑になるし黙っていよう」と呟き、受付事務の人は「そうなんです」と涙ながらに話をした。
苛立ち紛れに邪魔をするなというテンションで、「おい、森林!」と言う花田先輩。
森林樹は「話は好きにしてくれていい。とりあえず先に聞きたい事を聞かせてくれ」と言うと、受付事務の人に「合コンのメンバーを教えてください。この歯科医の子だけじゃないですよね?」と聞いた。
「…はい。以前ここに勤めていて別の歯科医に行った子とか、学生時代の友達で歯科助手になった子や、その知り合いなんかとやりました」
「とりあえず、わかる人だけで結構なので、お名前だけでもいただけますか?」
森林樹は先に外に出て花田先輩を待つ間、私に「多分あの子じゃないよ。事件後にあんな堂々と働いていたのに狼狽えたし、嘘もつかずにベラベラと話したんだ」と言うと、「早く次に行きたい。花田は何をやってるんだ」とため息混じりにぼやいていた。
・・・
何となくだが少しわかった。
多分森林樹は犯人像が見えていて、外堀を埋めているだけなんだ。
桧山岳人の通った歯科医も同じで合コンをやっていた。
また友達の友達みたいな人まで誘っていたので調べる人が増えてしまったが、森林樹は近くの歯科医に通う人にだけ会いたいとワガママを言い出して、花田先輩が呆れながら歯科医に顔を出す。
3か所に計4人程メンバーが居て、辟易としてしまう中、会えたのは3人で1人は先月末で辞めていた。
「辞めたのは…」
「植松真琴さんですね」
「怪しいな…」
「一応、退職理由は実家の母親が身体を壊して田舎に帰るからでしたけど」
そんな話をしている間に、最後に訪れた歯科医で1人の歯科助手の人に、森林樹は話しかけていた。
「恐ろしい事件ですね。あなたは報道を聞いてどう思いました?」
「とても怖かったです。ご遺体がボロボロで、歯も無かったとか…」
「ええ、愛のなせるわざでしょうか?」
「…愛ですか?」
「ええ、犯人は自己愛が強いのかも知れませんよね」
「……そういう見方もできるんですね」
そんな会話が聞こえてきて、そもそも刑事でもない一般人の森林樹がここにいるのはまずいので、「ダメですよ森林さん。帰りますよ」と私が止めると、森林樹は「そうだね。失礼しました」と言って歯科助手に会釈してから帰る事になる。
私と花田先輩は署に戻り、他の歯科助手達の人に話を聞く段取りと、実家に帰ったという植松真琴を探す事になった。
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