第2話 悪役令嬢ハナちゃんと、クールで優秀なお兄様。

 お受験をしなくてもお金の力でどうにかなる素敵な学園・中等部。

 悪役令嬢ちゃんが入れてもらったやんごとなき方々のための学校のことである。


 親しい友もちょっとした挨拶を交わす友もできぬまま、お車でお屋敷と学び舎を往復するだけの暗黒期。

 一点を見つめる猫のような学園生活。

 いつ何時なんどきイヤイヤ期、第二期が始まってもおかしくはない。

 そんな状態まで追い込まれている悪役令嬢ハナちゃん十四歳は、先日ついに『悪役令嬢』に関する有力な情報をつかんだ。


 頭と顔がすこぶる良いクールな〝お兄様〟は彼女に言った。


「これは音声入りだ。読めなくてもそれなりに遊べるだろう」と。

 そうして漢字テストの超難問『喉(のど)』を『NO土』と書いてしまった可愛い妹のため、教材代わりに携帯用ゲーム機と可愛い絵柄のゲームソフト〈危険な王子様と秘密のお勉強会! ラスボスは悪役令嬢?!〉を置いていったのだ。


 タイトルに、運よく『悪役令嬢』が入っている。

 普通の人間であれば、一度くらいは起動するだろう。


 だが悪役令嬢ちゃんは真の勉強嫌いだった。


〈危険な王子様と秘密のお勉強会〉


『勉強』の文字まで入ってしまっている。

 勉強嫌いが大人しく遊ぶはずもない。

 それゆえ『なるほど、あのときの小娘の言葉は、こういう意味だったのですね』という理想的でスムーズな知識の習得には至らなかった。


 彼女は可愛い絵柄のパッケージから嗅ぎ取ってしまったのだ。

 とにかくなんとしてでも勉強をさせてやろうという思惑を。


 考えた悪役令嬢ちゃんは兄の持ってきたそれらをまとめて、パパの鞄の中へ隠した。拒否権のない鞄は少々膨らんだ。

 彼女は悪役令嬢らしく、いびつなそれをもとの形に寄せることにした。

 取り除いたのは一番かさばるノートパソコン。近場にあるママのドレッサーの引き出しに仕舞う。

 必然的に押し出される化粧品。放浪の末たどりついた、クールなお兄様のお部屋。彼女は不用品をお兄様のクールな冷凍庫へ移した。


 これにより、それぞれが何らかの感情を抱いたが、帰宅後すぐに充電器を含む乙女ゲーム一式を鞄から除去したパパと、キンキンに冷えた化粧品を息子から手渡されたママは、クソガキである悪役令嬢ちゃんを叱らず、人格者であるお兄様のほうに提案した。


「このゲームで一緒に遊んであげなさい」と。

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