第132話 そして、当日がやって来る
――そして、遂にやってきた第二日曜日。
六月も中旬に差し掛かり、梅雨入りは確実となったのだが、今日は晴天だった。
時刻は、午前9時45分。
「うぉ~、ここが『ダンジョン・ウォーターパーク』か」
「始めて来たけど、凄いね」
俺と亜利沙は、満員のバスを降りた瞬間広がる景色に、目を丸くした。
満員バスの九割の乗客と一緒に降りた先にあったのは、小山のような大きさのゴツゴツした岩山だった。
おそらく演出のためだろう。有名テーマパークのアトラクションのように、小山の穴から滝のように水が落ちている。
そして、小山の手前に温室のようなガラス張りのエントランスがくっついていた。
その自動ドアへ向かって、沢山の人が行列を作っている。流石、急速に発展したレジャー施設というだけのことはあった。
この位置からだと見えないが、あの小山の中と地下が丸ごとダンジョンになっていて、プールや水性モンスターを飼い慣らしている水槽があるのだろう。
そして、小山の裏手には、晴れている日限定の流れるプールが存在するらしい。
この施設唯一の、屋外施設だ。
「楽しみだね、お兄ちゃん!」
「ああ」
亜利沙の興奮を隠しきれない声に、俺は頷く。
ちらりと彼女の方を見ると、“南あさり”としての仕事で来ているが、今はウィッグもカラコンも付けていなかった。(ちなみに、両方とも新調している。以前、不良達に攫われた際に無くしたり俺が踏んづけてしまったためだ)
この場で“南あさり”になった瞬間、とんでもない騒ぎになることは目に見えている。
だから、こうしてすっぴんでいるわけで――
「ぷふっ!」
俺を見た亜利沙が、また笑った。
「……今朝からずっとそれじゃないか、もういいだろ」
「だって……ぷくく、お兄ちゃん、それ、似合ってなさすぎ!」
笑いを必死に堪えながら、亜利沙が言う。
彼女は、出掛ける前から俺を見る度に笑っている。まあ、仕方ないのかもしれない。何せ――
「しょうがないだろ。変装しないと、いろいろ目立っちゃうんだから」
亜利沙は“南あさり”のときの方が変装であるため、来るときはすっぴんで十分だが、俺はと言うとそうはいかない。
プロ冒険者になってからゴーグルも外し、素顔を見せるようになった俺は、こんな人が集まっている場所で正体がバレた瞬間、たぶんとんでもない大騒動になる。
別に自分のことを過大評価しているわけでも、自惚れているわけでもない。
ただ、客観的事実として、この二ヶ月で数回ニュースに載った人間としては、身長に動かざるを得ないのである。
「だからって、サングラスにアロハシャツって……ぷはっ! 似合わな(大爆笑)」
「うるさいな! 自覚してるよ!」
元々色白で線が細いからな、俺は。
弓矢を扱っている以上、腕の筋力に自信はあるし、細マッチョ? 的な感じではあるけれど……少なくとも、湘南のビーチとかで「ヒャッハー!」してそうな格好(偏見)が似合うわけが無かった。
と、そのとき。
「お、いたいた! 翔~!」
不意に、俺を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
元々現地集合で、俺と亜利沙が一番に到着したのだが、どうやら次に早く現地にたどり着いたのは――
「英次! ……と、潮江さん?」
私服姿の八代英次と潮江かやの2人組だった。
「おお、君が噂の大人気ダンチューバーの妹さんか」
英次は、俺の隣にいる亜利沙に目を向けると、「よろしく」と手を差し出す。
「よ、よろしくお願いします」
亜利沙は、おずおずといった様子でその手を握り返した。
「なあ、英次。なんで潮江さんと一緒に来たんだ?」
俺は、胸に抱いていた疑問をそのまま英次にぶつける。
俺と亜利沙は兄妹だし、まあ一緒に来ても不思議じゃない。だが、英次と潮江さんが一緒に歩いてきたというのは、どうにも珍しい気がしたのだ。
「え? ああ、それはまあ……」
英次は、しどろもどろと言った様子で曖昧に答え、ちらりと潮江さんを見る。
当の潮江さんは、薄らと頬を赤くしながら不機嫌そうに目を逸らした。
「それより! まだお前等しか来てないのか?」
今強引に話を逸らしたよな?
そう思いつつも、何やら2人とも話す気は無いらしい。
ここは、突っ込まない方が良さそうだ。
「まあ、十時集合だし、そろそろ来ると思うけど」
俺は、あえて深く追求しないことにした。
それから、待つこと10分。続々と、他のメンバーが集まってきた。
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