たとえ火の中水の中
地球の面積の7割は海だというが、そんな広大な海の中にも当然ダンジョンはある。
しかしそうしたダンジョンのほとんどは危険度が低いのでたいてい俺の支配下には入っていない。
「休暇中に悪いが、海底ダンジョンに行って来て欲しい」
久しぶりにのんびりできると思っていたとある朝、俺の上司であるリーチさんが深々と頭を下げてきた。
綺麗な直角となったリーチさんを見て思わず「急にどうしたんですか」と聞いてくる。
「アフリカのある原発建設予定地に近くの海底にダンジョンが見つかったんだが、建設日程を遅らせないために早急に派遣しろと前々からうるさいのをお前の体調を理由に先送りしてきたのがもう限界らしくてな、ついに実力行使を仄めかされた」
アフリカ諸国は意外にダンジョン先進国で探索者も腕利きが揃っており、実力行使となると永礼たちじゃ俺を守り切れないと判断したのだろう。
それにアフリカの探索者はたまに元密猟者とか元海賊とかのヤベー経歴の人が混ざってて、そういうタイプだと実力行使に躊躇が無いから対応間違えるとマジで命に係わるんだよな。しかもそういう奴らのほうがめちゃくちゃ強かったりする。
「まあそう言う事ならしょうがないですね」
「昨日帰国したばかりなのにすまない」
「イレギュラーで夜中に叩き起こされるよりはいいです」
幸いここ2~3日は夜中に叩き起こされることもなく、休暇を満喫させて貰えてた。
これくらいなら諦めも付く。
「まあそう言う事ならさっさと行ってきます」
*****
さて、海底ダンジョンに行く場合には特殊なスキル持ちが必要になるので俺についてくる奴もまた特殊スキル持ちとなる。
「リョウ久しぶり」
「久しぶりにプールで泳いでたら急に呼びだされてびっくりしちゃったよ」
入江リョウは海底ダンジョン専門の探索者で、海底ダンジョン探索においてはリョウが日本一と言われている。
海の多い日本には海底ダンジョン専門探索者はそこそこいるし、戦闘力などの面においては国内では上の中とされる。
しかし俺が海底ダンジョンに行くときはほぼリョウが警護につく。
「じゃ、海底散歩と行こうか」
そう言って手を繋いで海底へと歩き出す。
リョウのスキルは海底案内人というもので、自分と繋がった相手を安全に海の底に連れていくことが出来るスキルだ。
俺の場合はリョウと手を繋いでいる間だけ溺死の心配なく歩くことが出来る。
ひとつの国に一人か二人ぐらいしかいないちょっと珍しいスキルにより、俺は安全に海底ダンジョンへ辿り着けるのである。
「海の底で男と手つないで歩いてるのってまあまあ意味不明なんだよなあ……」
「スキルの制約だからなあ」
リョウと手をつながずに海底を歩くには粘膜接触が必須だそうだ。エロゲか?と思いつつも丁重に断ったら手をつなぐだけでもいいと言われて現在に至っている。
でもリョウはこのスキルにより海底ダンジョンに複数人で入れるらしい。エロゲじゃん。
「俺もスキルで得したかったなー」
「逆に考えてみろよ、能力最高峰で仲間にしたいと思ったらたとえ小汚いおっさんでもキスしないと連れていけないんだぞ?」
「ごめん」
よく考えると俺もスキルのせいで死にかけたり見知らぬ国の海底に潜らされてるのだ。
何の不便も無くお得が出来るスキルなんてどこにもないのかもしれない。
「スキルも不便だよなあ」「だなあ」
目的のダンジョンはまだまだ遠い。
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