第33部 4202年33月33日

 目が覚めると、同じ布団の中に彼女がいた。いつものことだったが、そのいつものことが、今日は特別に感じられた。


 その、傍にいる彼女が、いつもの彼女とは別人のように感じられたのだ。眠っている彼女の顔は、いつ見ても彼女のもので、実際には、姿形がいつもと違うということはない。けれど、横を向いて、自分の腕を枕にして、その上に側頭部を載せ、静かに寝息を立てている彼女の姿が、ほかの誰かに重なるように感じられることがある。


 その、ほかの誰かとは、誰だろう?


 僕にはよくあることだった。彼女の中に、別の彼女の姿を見るのだ。つまり、僕が見ようとしているのは、彼女の中にいる、彼女と、彼女と、彼女の総体としての彼女なのだろう。いくつも偏在する彼女を一つに集めたものとしての彼女と、僕は暮らしている。


 昨日一緒に夜ご飯を食べた彼女が、どの彼女なのか、分からなかった。


 今、目の前で寝息を立てている彼女が、どの彼女なのかも、分からない。


 動物は個体を区別するが、植物はどうなのだろう。植物は地面に植わっているわけだから、隣接するほかの植物と連続した状態にある。土の中で根も交わるかもしれない。それでも、隣接する相手を、自分とは違うと区別するだろうか。


 相手が自分とは違うということを理解するためには、まず、自分というものの範囲を理解しておかなければならない。


 ところで、僕と彼女は同一人物だ。つまり、いくつもいる彼女の中に、きっと僕も含まれている。いや、そういう捉え方ではなく、いくつもの彼女が集まった総体としての彼女と、僕が、同一人物なのかもしれない。前者と後者では意味が違うだろうか? いくつかのものと対立したあとで一つにまとめられるのか、いくつかのものが一つにまとめられたものと対立したあとでさらに一つのものとしてまとめられるのか……。


 何を考えているのだろう、と、僕は欠伸をしながら考える。


 振り向くと、彼女がいた。


 さっきまで目の前で眠っていたのに……。


「ohayou」彼女が言った。「yoku, nemureta ?」


「どうかな……」僕は首を傾げる。「君は、どうなの?」


「watashi no ichibu wa, nemutte ita mitai」


「君自身は?」


「watashi no bun mo, kimi ni, nemutte moratta yo」

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