第27部 4202年27月27日
なかなか寝つけない夜が続いている。何が原因か分からなかった。自分が眠りたいのかも分からない。布団の中に入っても、瞼が自然と落ちることもなく、意識的に目を瞑っても、気づいたときにはいつの間にか開いてしまっている。天井をぼんやりと眺めていると、自分がどこにいるのか段々と分からなくなっていくみたいだった。それで起き上がり、床に足をついて、自分が部屋の中にいることを確認する。
椅子に掛かっている上着を羽織って、僕は窓の傍に近づく。
レースのカーテンを開いて、窓も開いて、僕はそこから外に飛び出した。
この住宅街に背の高い建物はない。だから、少し上の方に羽ばたくだけで、夜の町並みを一望することができた。ここは標高の高い丘の上で、眼下に広がる建物の放つ光が、星のように見える。人工的な光は、本当は一定の周期で明滅を繰り返しているはずだ。遠くから眺めることで、その周期が僅かながら感じられるようだった。
僕は妙に悲しくなって、気づいたときには、泣いていた。
気づく前から泣いていたのだろう。
寂しさの源流とは、何だろう? それは、今ここにあってほしいもの、いてほしい人が、ここにはいない、その距離にあると思われる。しかし、大抵の場合、その、今ここにあってほしいものや、いてほしい人というのは、明確ではない。だからこそ、寂しさというものの正体は分かりにくい。きっと、明確ではないから、それを明確にしようとするのに、結局明確にならない、そのプロセスに身を置くこと、それこそが寂しさの正体なのだろう。
いつの間にか、僕の隣に彼女が佇んでいた。
「kimi wa, ningen de wa nai n ja nakatta no ?」彼女が唐突に言った。
「そうかもしれない」僕は答える。「でも、人間的であることは確かだよ」
「ningen mitai ni, sabishii no ?」
「そうかもしれない」
僕がそう答えると、彼女は僕のことをそっと抱き締めてくれた。しかし、体温は感じられない。とても寒かった。彼女が僕を凍えさせるようだ。もしかすると、もう寂しさを感じなくて良いように、僕を殺してくれるのかもしれなかった。
気づいたときには、朝になっていた。
僕はベッドの中にいる。
たった今感じたその喜ばしい感覚が、夢なのか、そうでないのか、分からなかった。
夢だとしても、眠れない苦しさを味わうより、余程ましだと、僕は思った。
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