第15話

「そうなんだ」

「ハハハッ、真樹人さんはやっぱり驚かないんだね」

「別に、どうって事ないだろ」

真樹人は特に気にもとめず答え芽衣は少しばかり笑ったがどこが物悲しい顔していた

「父親も母親も知らない、私は施設の入口に捨てられてたみたい」

「…そっか」

「どんな理由だよって話、てめぇで勝手に作って産んだ子供を捨てやがって…寂しいじゃんか…勝手すぎるよ」

「やっぱり俺にはわからないな、寂しいってのは。現に今君はこうやっているじゃないか、それは君1人でやれてきたって事だろ?誇れよ」

真樹人はどこか素っ気ない

「やっぱり真樹人さんは強いんだね、アタシはそんな簡単に割り切れない。他の人は当たり前に親がいるのにアタシは施設、どこに行っても親無しの子と哀れまれたり蔑まれたり…しかも捨て子、そんな話は施設で直ぐに広まったよ施設の中ってさ、思いのほかカースト凄いんだ。沖縄って土地柄狭い島だから余計にね。当然アタシは下っ端」

「…それで?」

「往診に来てくれた先生、施設の人やボランティアの人はみんな優しかった、葉山さんだけは何故かアタシの事をいつも気にかけてくれてた…でもやっぱり親じゃない、誰かに甘えたい、人並みに優しくされて普通に過ごしたいって気持ちがいつもあった。どこに行っても居場所なんかなかった…大人の見えない所では虐められて…いつからかアタシは自分なんて生まれなきゃよかったんだと思いだしてね、何もかもが嫌になって中学2年くらいかな、アタシ施設飛び出しちゃったんだ」

物憂げな顔をして髪を掻きあげながら芽衣は続けた

「いい判断じゃんか、1人で生きてく腹積もりだったんだろ?」

「褒められた生き方じゃないよ、14歳の社会を知らない女のガキが生きていく方法なんてない、自ずと方法は限られるよ。…散々抱かれた…その日生きる為に、酷い時は1日7人、雨風をしのぐ為に一晩中なんてものね…値段も分かんないからさ、アタマ悪すぎだよね…ハハッ」

真樹人が芽衣の顔を横目で見ると海水なのか汗なのか、目に溜まる物があった

「俺は聞くしかできない、それでもいいなら続けるといい」

「うん…でもさ?そんなもん続かないんだ。ガキの浅知恵だからやっぱり警察に捕まったわけよ。意地でも施設に戻りたくないからずっと黙ってた、他の子達は親が迎えにきてた…でもアタシには…。最終的には根負けして喋るんだ、いつもは遅くに施設の人が迎えに来てくれてたんだけど往診の先生やボランティアの葉山さんが迎えに来てくれる時は早く来てくれてた、今思うとさアタシは金も欲しかったけど誰かに想われたかったんだよ。抱かれる時にみんなアタシの事好きっ言ってくれた、愛してるとも。全部…全部嘘なのにね…でもその言葉が欲しかった、生まれてきて良かったんだって思えたんだ。バカだよね…救いようの無いバカ、それに気がついてるのに同じことの繰り返し…優しくされるといつも…昨日の男もその一人、偽物の愛情だと気付いてもアタシには何も無いから…何も無いからどんな形でもいいから人といたかった」

芽衣が話終わる前に真樹人が左腕に付けていた時計を外して芽衣に渡す

「これやるよ」

「は?なんでこのタイミング?!受け取れるわけないじゃん!こんな高そうなの!!」

少し声を荒らげた芽衣

「高そう?これが?」

「うん、真樹人さんが身につけてる物だか…」

「残念、これはスーパーコピー品だよ」

「なんかからかってます?それともバカにしてる?」

「違う違う、俺はさ?愛とか好きとかよく分からないからさ、例え話をしたかったんだ。今君はこれを本物と思い込んでた、でも偽物ならいつかは偽物と分かるだろ?逆もまた然りさ。偽物と思ってた物が本物だったって可能性はいくらでもある。思いや思考ってのはその時々捉え方が変わる普遍的なもんさ。だから君がその偽物の愛というものを本物と思い込んだってなんら不思議は無いって事。だからそんなに自分を卑下するな」

「…ごめんよくわからないよ」

「俺こそ上手く伝えられなくてごめん、でもまだ少ししか君を見てないけど俺から見たら君は凄いよ」

外した腕時計をつけながら真樹人は続けた

「君の言葉に嘘はない、思いをきちんと伝える言葉だ。それに君は人を見た目で判断しない、普通の女なら俺みたいに体は傷だらけで性格悪い奴とは一緒にいたくないと思うぞ?なのに俺に時間を割いてくれる。そして自分で考える事をきちんとしてる。俺はそういう所が凄く人間的に好きだ。それに君は薬剤師じゃないか。人に頼られ感謝される立派な仕事をして人に携わってる。君が出会った人間の中に一瞬でも君と出会えて良かったと思ってる人間がいる、俺もその中の1人だ、何も無いなんてない、君に君の良さがある、だから…産まれなきゃ良かったなんて二度と思うな」

「ありがとう…なんか照れるよ」

苦笑いしながら芽衣は目を逸らした

「やっぱり真樹人さんは優しいね」

「また言ってる」

「そう言って貰えたの初めてだよ、みんな「俺は違う」とか「これからは違うよ」とかね、否定の言葉から入るんだ、でも真樹人さんは違った、こんな馬鹿な話に付き合ってくれて肯定してくれた…ありがとう…ありがとう」

「気にしないでいい、俺は思った事を言っただけ」

芽衣が左手を真樹人の右手重ねた

「真樹人さんもやっぱり同じ事思ったりした?」

芽衣が優しく真樹人の手を包む

「辛くなかった?嫌じゃなかった?」

「どうだったかな、もう忘れた。俺は自分を置き忘れたつまらない人間だよ」

「そんな事ない!この時この瞬間アタシは真樹人さんに感謝してる、つまらない人間なんかじゃ…」

「やめようぜこんな話、喉乾いたな。なんか飲もうか」

それだけ言いうと真樹人は浮台から水に入った

「今度は浜まで競走だ、お先に!」

「あ!ずるい!」

芽衣も続いて水へ入る

先に泳いでいた真樹人は追いつかない芽衣に気がつき振り返ると芽衣は浮台近くで浮いていたのて急いで真樹人は戻る

「どうした?!足でもつ…」

真樹人が芽衣に言い終わる前に芽衣が真樹人の唇を奪い

「真樹人さん…ありがとう」

そう芽衣が言い終わるとまた芽衣はキスをして真樹人に抱きついた

2人の体が少し沈み頭まで水に浸かるが海中で真樹人が芽衣を抱き寄せる

真樹人は芽衣を抱きしめながら海上へ、すると芽衣は

「もう少しこのままでいたい」

と言い真樹人は何も言わずに抱きしめたままだった

「真樹人さんの体あたたかいね」

「そうか?」

「うん…あったかいよ」

「水ん中だからじゃないか?」

「違うよ、真樹人さんは…」

「呼びやすいように呼べよ」

「真樹人はさ?本当に寂しくなかったの?」

「わからないな、意識したことない」

「誰かを好きになったりした事…ないの?」

「…そんな人間らしい感情を持つ資格はないんだ俺には」

「どうして?こんなに優しくて温かいのに」

芽衣は泣きそうな顔をしているを隠すように真樹人の後頭部に手をやり強く真樹人を抱きしめる

「買い被り過ぎだよ、俺は…」

真樹人が喋り終わる前に芽衣の唇が真樹人の口を塞ぎまた抱きしめる

「そういうのいいから、私は真樹人と一緒にいたい、ダメ?」

「いいよ」

泣きそうだった顔が笑顔に変わり

「1回上がるって言ってたのにね、フフッ、上がろうか」

「そうだな、いい加減喉乾いたよ」

真樹人が言い終わると芽衣が離れ

「競走でしょ!お先に〜!」

先を泳ぐ芽衣を追いかけるように真樹人も泳ぎ浜へ向かった



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