第6話 やっぱり実際に経験してもらった方がいいでしょ

「今日からの野営に当直はいらん!」


 ザワザワする騎士の皆さんと、ちょっと疲れ切ったボルグド殿下。


 そう。実は、今日の野営地に着いたんだ。丁度他に休憩する人が誰もいない事から、この場で説明会を開いている。


「いいか!このアラタは俺の庇護下に入った!よってこれからヴェルダントに戻る道中は宿や街中には泊まらずに進む!」


 この言葉を聞いた騎士さん達はより一層ザワザワし始めたんだ。


「殿下〜、そりゃないですよ。ただでさえ旅の間は楽しみがないんですって。酒くらい飲んで、ゆっくりベッドで眠らせて下さいよ」


 一人の赤毛の騎士が代表で意見をしてきた。この話し方がいつものことらしいけど、どうやら殿下がそれを許容しているみたいだ。


 そして、誰かがこうやって意見を述べるだろうと、予想していた殿下。ニヤッと笑って俺の肩に手を乗せる。


「……もし!お前らがこれからの道中に満足しなければ、俺が一人につき金貨100枚を補填してやろう。そのかわり嘘でもついてみろ……!どうなるかはわかっているな?」


「殿下〜!いいんですか?俺達に都合良すぎますよ?」


「金貨100枚貰ったようなものじゃないですか」


「それなら何があっても我慢しますって!」


 口々に手のひらを返し始めた騎士達に、殿下は満足そう。


 俺といえば殿下の従者のグエルに、騎士達の名前を聞いていた。


 そう、入居者追加登録をしていたんだ。今回はお忍びだから騎士9名、従者兼御者のグエルの10名。


 事前に魔力登録は握手でしていたから、後は名前だけでいいんだ。


「よし、お前ら覚悟しろよ……!アラタ、良いぞ」


「フェイお願い」


「畏まりました」


 フェイが右手をスッと何もない空間に向けると、マンションの扉が現れる。


「は?」「え?」「ほ?」「ええっ!」「うおっ!」……


 すると、騎士さん達らしからぬ声が上がり、みんなの動きが止まった。


「さ、今日からしばらくの宿舎の登場だ。ほら、いくぞ!」


「「「で、殿下あああ!!!」」」


 及び腰になっている騎士さん達の背中を押して、マンションへと入って行くボルグド殿下。


「大丈夫ですよ、皆さん入ってきて下さい!」


 僕も騎士さん達に声をかけマンションの扉をいつも通りに潜るとフェイも続く。


 残りの騎士さん達をゲンデが案内し、従者さんは駐輪場に馬と馬車を繋ぎに行ってくれた。


 そう、低層マンションには、馬車が丁度入る駐輪場がついていたんだ。


 マンションの外になるけど、面白い事に水飲み場もついているし、入居者以外には認識できない仕組みになっていたんだよ。


 そして全員揃ったところで、部屋割り発表。


「護衛騎士は全員一階だな。一人一部屋になるぞ」


 そういってボルグド殿下が今度は自慢気に騎士達に案内をする。


 お風呂の使い方、トイレの使い方、キッチンの使い方等、騎士さん達の開いた口が塞がらないまま説明が終わると、殿下がニヤッと笑って騎士さん達に問いかける。


「どうだ?スレッド?お前、綺麗好きだったよな?ケイン?柔らかいベッドで寝たいんだよなぁ?クライブ?お前、虫嫌いだったよな?水は使いたい放題、魔物の心配はない、しかも快適ときたもんだ。それに食事は支給式だが、アラタ見せてやってくれないか?」


「あ、お弁当ですね。フェイ頼む」


「畏まりました」


 フェイがいつもの様に次々とお弁当やお惣菜を出して行く。


 あ、もう一つ面白い事がわかったんだった。


「そうだ、皆さんこのテレビという魔導具をみて下さい」


 僕はリモコンを持ち、TVの電源を入れる。すると、画面には宅配ボックスのリストがズラリと並んでいるんだ。


「今表示されているのは商品です。足りないもの欲しいものが、皆さんの魔力かお金が対価で購入できます。例えばコレ」


 僕が5チャンネルを押すと出てきたのは……


『〈酒〉

 ・酎ハイ    各MP10/銅貨5枚

 ・ビール    各MP15/銀貨1枚

 ・ワイン    各MP20/銀貨1枚

 ・ウィスキー  各MP25/銀貨2枚

 ・日本酒    各MP25/銀貨2枚 』


「TVの横の硬貨入れに硬貨を入れるか、手元のリモコンの魔力を譲渡するボタンを触るかで購入できます。お酒は勿論色々購入出来ますので、調べて見てくだいね」


 と、僕が説明すると、殿下や従者さんも含めて唖然としている騎士さん達。


 いち早く復活したのは、耐性のある殿下。


「……は?アラタ、コレはこのマンションに居れば、お前を頼らずに買い物できるのか?」


「あー、そういえばコレ説明してませんでしたね。各部屋から注文可能ですよ?時間も気にせず購入できます。各部屋の宅配ボックスに商品は届きますよ。大きな物は部屋の空きスペースに現れる仕組みになっています」


 僕が自慢気に言うと、さっきとは態度がガラリとかわり、頭を抱え出す殿下。


「お前……なんちゅう規格外なスキル持ってんだよ……」


騎士さん達も戸惑う中、ゲンデはわかると言わんばかりにうんうん頷いている。


「あー、便利で良いですよ?」


指で頬を掻きながら誤魔化し笑いをする僕に、ため息一つ吐き「理解した」と立ち直る殿下。


「お前を理解するのは無理だと理解した。……が、だからといってこんな有用な場所、お前ら逃すべきだと思うか?」


今度は騎士達に向けて殿下が問いかける。


その問いに騎士達が小さな声でいいえと口々に言い出していたのが不満だった殿下。


「はっきり言え!」


「「「「「「「「「思いません!」」」」」」」」」


「ならば、アラタを仲間として受け入れろ!ただし、俺の庇護下にある事も忘れるな!そして俺達の為に示してくれたアラタの善意に感謝を忘れるな!」


 マンション中に響きわたるんじゃないかというくらい、騎士達の大きな返事に満足の表情のボルグド殿下。


 きっちりと最初に気を引き締めてくれる辺り、流石というかより好印象を持った僕。


 しかも人の気持ちを掴むの上手いんだ。


 「よし!強行軍だったからな。明日は移動は休みとする!グエル!一人につき金貨一枚支給してくれ!あ、俺の金から引いてくれよ?」


 そんなボルグド殿下の言葉に更に叫び声というか、騎士達から歓声が上がる。


「さっすが殿下!」


「殿下、最高!」


「世界一のいい男!」


「殿下!早速一緒に飲みましょう!」


「おう!今日は飲むぞー!」


 ワイワイと普段の表情に戻った騎士達に殿下自ら加わっていき、一つのTV画面を食い入る様に見始めた様子に僕は思いっきり笑ってしまった。


 こんなザックバランな関係を正直言って憧れていたんだよなぁ。


 それに釣られてゲンデまで合流しちゃってマンション一階の一室から、ボルグド殿下の部屋に移動して、全員で騒ぎまくった夕食。


 僕は13歳だからジュースだけだったけど、騎士さん達の和の中に入れて貰ってすっごく楽しかった。


 たまにフェイに手を出しては、冷気を浴びていた騎士さんもいたけどね。


 全員殿下の部下だけあって気の良い人達ばかりだったんだ。


 でもお金が入って行くたびにフェイがニンマリしていたのは見なかった事にしようと思う。


 ……どこかでお金いっぱい使わないといけないね。悩みどころだなぁ。

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