49 第二集落攻防戦ですよ?(前編)

「魔族側との協定が成立した。精霊族は『ソドム』の攻防戦に参戦する」


 ラドリオさんの発言が、いよいよ三角島の攻防戦が終局に入った事を感じさせた。

 もとより、人数に差のある人族と魔族だ。もはや勝ちはないものの、最後の意地で完全占領を避けたい、魔族側の要請に応じる形になる。


「こちらの戦力をどう分けるか……ですね」

「ダリは特にこだわりがないから、ダリゴジを誰かに託すと言ってる」

「おや? 『暴風ブラストウィンド』さんは、第2集落に残るのですか?」

「しゃーない。ソドムにゴーレム2機を配備するなら、こっちにサクヤとキャトル君を配備せにゃならんだろ。……ウチには保護者が多いんだ」

「ロキさんがサクヤさんを前線に出すと言い出すとは、思いませんでした」

「……ここが正念場だろう?」


 苦虫を噛み潰したかのようなロキさんに、皆雰囲気が引き締まった。


 ここから、終戦の日まであと2週間。

 出島にいた人々もテイタニアに移動してきて、物資輸送を最短にするべく体制を整え直した。私のアトリエも、チュウミンさんたちに開放する。

 その代わり、2体のゴジブラザーズの保管場所で、神殿風にした場所を、新たな工房として借りた。

 第2集落は、第3集落ほどの発展は出来ずに、高い土壁などを築いて防衛戦を敷いている状況だ。……こちらに来るとは、限らないんだけどね。


「お待たせ、サーヤ。仕上がったよ」


 水洗いしたサークレットをタオルで拭いて、サーヤの頭にかぶせてあげる。

 少しきょとんとしたあと、シュンシュンと素振り。ニンマリ笑った。


「いいねぇ……素早さが数段レベルアップした感じ」

「こんな事しか出来ないもん。ダリさんのが間に合わなかったのが残念」

「良いわよ。……前に作ってもらったのがあるから」


 頭撫で撫では、リルがいる前ではやめてよぉ。指導者の威厳が……そうでなくても少ないのに……。

 でも、これで装備を作るのは一段落かな?

 リルも、ムーンストーンの加工を終えて、レベル5になった。

 この娘がついて来ているっていうことは、『ブレイクライン』の援軍を期待できるってことかな? 暗殺者アサシンとしても、大きな戦力なんだけど。


「さて……万が一の話だが、サクヤ。何かゴーレム対策は有るか?」


 フェイント対策とはいえ、ロキさんとしては心配らしい。

 私としては、それよりも……。


「前にも言ったけど、ゴーレムはキャトル君に任せておけば大丈夫だよ。……心配なのは、左右のそれぞれの戦場で、バラバラに2体を動かされた時くらいかな? それよりも、こっちに主力が来た時の戦力差を気にしようよ」

「サクヤ的には、来ると思うか?」

「思う。だって、ソドムは町だから防御もしっかりしてるだろうし、ウチとの同盟を知らないにしても、魔族の全戦力を相手にすることになるでしょ?」

「まあな……」

「その分、こっちは手薄! 戦果としては、どっちを落としても同じなら、絶対にこっちに来る。少しでも楽に勝ちたいのは、私だけじゃないと思うよ」

「サクヤが言うと、特に説得力が有るな」


 だから、ロキさん……それは失礼でしょ。

 私の考えることくらい、向こうも考えるよ。

 戦いは数だよ、ロキさん。


「でも、戦力差はなかなか埋められないぞ?」

「だから、ジュエラーとして先に準備して良い? ちょっと囲いの外に出るけど」

「危険なことは駄目だよ?」

「キャトル君に乗っていくから、大丈夫だよ。リルも連れて行くし」

「私も行く」


 無理矢理、サーヤも合流する話になった。

 過保護だなぁと思うけど、嬉しいものは嬉しい。

 物見隊からの報告では、敵影見えず。なので、早めに行動しておこう。

 とたとたと、防衛ラインの戦場に出る。

 草も生えない土剥き出しの地形が、激戦を物語る。

 ここら辺かな? と思う所に、私は宝石袋から、磨いた宝石を選んで埋めていく。


「サクヤ……ずいぶん勿体ないことをしていない?」

「私もやりたくないんだけど……もう大詰めで、ジュエリーを作ってる時間もないから」


 ごめんね……。と思いながら、場所を変え、宝石を変えて埋めていく。

 無駄な手数で、終わりますように……。

 戻った私は、最後のジュエリーを仕上げる。

 それは宝飾品としては、あまりにもシンプル過ぎるものだ。

 長さ15センチほどのプラチナのタクト。

 その先端に4カラットも有るダイヤモンドを、上下逆に固定する。

 リルがびっくりした顔をしているけど、君がこれを知るのは、あと5レベル上がってからだよ?


 本当に、もうすることがなくなった私は、物見の櫓のてっぺんで、脚をブラブラさせながら串焼きを齧ってる。

 ロキさん製の串焼きの残量も乏しくなってきたけど、「串焼き、焼いて」なんてわがままを言える状況ではない。ピリピリと殺気立った状況だと、ここが一番居心地が良いんだ。

 テイタニアの中央広場の、屋台村が恋しいよ。

 でも、向こうも今は殺気立っているのかな?

 こちらとは違って、前線に送る装備の製作だろうけど。

 ゲーム時間の今朝方、テイタニアから私に荷物が届いた。荷馬車3頭引きのとんでも無い品物だ。ケインさん製の逸品は、何とキャトル君用の盾。ゴーレム同士の戦いを強いられるだろうキャトル君には、何よりの助けになる。

 ありがとう、ケインさん。


 最初のそれは、小鳥の囀りだと思った。

 次第に増えていって、それは警報であると知らされる。


「サクヤ、危ないから下に降りて」


 キラキラっと、櫓の上に飛んできたサーヤが促す。

 もうはっきりと見えるくらいに、人族の大群が迫って来ている。もともと人数差が有ると聞いていたけど、こんなに違うものなの?


「ここまでの大群は、私も初めて見るよ。……サクヤの勘が大当たり。こっちが本隊みたいだ」

「……当たって欲しくなかったよ」

「同感……でも、来ちゃったものは仕方がないよ」

「でも、ちょっとだけ下に降りるの待って。ゴーレム君を見たい」

「しょうがないなぁ」


 私は望遠鏡を出して、覗き込む。

 絶対に、これ見よがしに前に出してると思うんだ。

 どこかな、どこかな……あ、いた。

 ズルいなぁ、人族のゴーレムはスラリとした人間型。ちょっと、カッコいいじゃないか。

 ウチのキャトル君がキラーマシンで、魔族用がメカゴジラなら、こっちは重戦機ヘビーメタルな雰囲気。主役機じゃなくて、汎用機っぽいやつ。色は赤と青。きっと、赤の方が高性能。

 満足したので、櫓を降りる。


「2機ともこっちに来たけど、勝てそう?」

「カッコいいから、欲しいな。どうやって生け捕ろう……?」

「また、サクヤは……」


 サーヤは呆れるけど、実はもう手は打ってある。

 終戦のタイムリミットまであと3日。

 どうやら人族は、この一戦に全てを賭けるつもりでいるみたい。

 第1集落を確保した人族。第3集落を確保している精霊族。ここで押し切られて第2集落を奪われたら、精霊族の負け。押し返してキープすれば、精霊族の勝ち。解りやすい。ゴーレムを敵戦力から排除できれば、とても大きいと思うの。


「じゃあ、ダリ姐……後は頼む」


 そう言いながら、ロキさんは前線に駆けていく。

 あれえ? ロキさんが全体の指揮を執るんじゃないの?


「しょうがないのよ、ロキさんも、すあまさんも、前線向き過ぎるから。全体の指揮は後衛の私の仕事になっちゃった」


 呆れ顔のダリさんに付いて、正門上の指揮櫓に上がる。

 変にうろちょろするよりも、ダリさんといる方が安心な気がする。

 自動修復の範囲からは外れてしまうけど、大盾を持ったキャトル君も、ロキさんと共に前線に出た。ゴーレムに盾の発想は無かったのか、人族側がどよめいているよ。


 戦いは、何の前触れも名乗りもなく、いきなりの投石機の応酬から始まった。

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