23 古城の月ですね?
「また、変なものを……」
あれ? 定時会議での反応が思ってたのと違う。
前時代の叡智の結晶だよ? 先日の海賊船のラスボスだよ?
そんな凄いものを味方に引き入れたと言うのに、何その反応?
「だったら、それっぽくスクリーンショットを撮ってくれ」
肩に乗ってピースサインしてるのは私だけど、浴衣なのと猫さんクッションに座ってるのは、紬さんの趣味だし……。それって、私のせい?
誰かと一緒の方が、大きさが解りやすいよね?
古城に向かう道は、ススキ野原っぽい、背の高い草の原っぱ。紬さんが虫嫌いっぽいので、一緒にキャトル君の肩に乗って移動してる。
「キャトル君って、何だよ?」
「名前がないと可愛そうだから、ゴーレムに名前つけた。赤いし……そのまま過ぎると何なので、クワトロをフランス読みしてキャトル?」
何が『そのまま』なのかは、察して欲しい。
盛大な溜め息が通信の場を支配する。
「ま、まぁ……強いのは確かだ。前衛が一枚増えた」
ケインさんが、何とかフォローしてくれる。
ピノさんが付け加える。
「それに、やっぱり技術の極みだよ。……ネジも金具も無くて、中を見られないのが残念だけど、ここまで出来るんだって目標になるよ」
「今までは、全部自己流だもんね。指輪にしろ、初めて完成品を見たよ」
「まあ、それは大きいのですけど……」
すあまさんも、イマイチ反応がよろしくない。
元気づけるように、ラドリオさんが明るく笑った。
「それっぽいものが敵から出てくるとしたら、まずこっち……『エコーズ』が受け持つ第3集落だろう? 泳げないと解っただけでも大きいよ」
そっか、魔族側は同様に何かを得るだろうことが、予想されてるんだ。
もっと得手不得手が解ったら、詳細を伝えましょう。
連れて歩いてる本人が、一番詳細を知れる。
「次は古城ですか……気をつけてくださいね」
美猫な、すあまさんの気遣いで、会議は終わった。
さて、先に進みましょうかね。
「ゴーレムの肩に乗ったまま、言われてもな……」
ケインさんは渋い顔をするけど、毒蛇とかサソリとか出そうな場所。か弱い後衛女性陣が頑丈な物に乗って、地に足をつけないっていうのは、理に適ってるよね?
「文句を言えねえからこそ、腑に落ちないことも有るんだ!」
草に紛れた敵に、不意打ちを食らいかねないもん。……絵面の問題だけで。
「……すみません。虫は本当に苦手で」
「紬さんは気にしないで、文句は全部サクヤに行く仕組みだから」
「それ、酷くない?」
「日頃の行いが、物を言うからな」
言い返そうとしたら、戦闘開始。
ふむ……キャトル君が出るまでもないね。
逆に、私が手を出しても良いレベルの相手じゃない。
毒ハイエナと、大毒蛾を難なく倒して勝利。
何もしていないのに、戦闘レベルが上がる不思議……。
なっちょさんにも苦笑されちゃうけど、そういうシステムだから。
大怪我しない程度の相手だと、後衛って本当に見てるだけだ。
「古城って、あれじゃない?」
キラキラ妖精羽根で飛ぶピノさんが、なだらかな丘を下った先に城趾を見つけた。
城の外郭は残っているのだけれど、尖塔とかは崩れてしまっている。
少なくとも、今現在使用されている城ではなさそうだ。
外堀はもう、溢れて湖のよう。正門に続く橋の部分は、まだ使えそうに見える。
何があったのかは解らないが、有るべき城下町は既に無く、ただポツンと城だけが残されているみたい。
「さすがに敵を迎え撃つ外壁は、残っちゃあいるが……。城としては、相当昔に廃城になった感じだな」
「何となく、夜に探索はしたくないんだけど……」
ピノさんは眉を顰めるが、無常にも日は落ちて、藍色の空に月が浮かんでる。
そして、私たちは城門の前に到着してしまう。
「むしろ、夜で好都合だろう? 生きてる奴がいそうにないなら、情報は生きてない奴から得るしかない」
「それが嫌なんだって……ゾンビやスケルトンはいいけど、幽霊は……」
意外にピノさん、おばけが苦手と見た。
反対に虫はダメだけど、おばけは大丈夫そうな紬さんが慰める。
「まだ、情報が得られるとは限らないから。……そもそも、まともな情報貰ったのって、最初の海賊船の地図だけじゃない」
「それもそうだ……。話をするより、何かを探すパターンばかりだな」
一人納得顔のケインさんが歩き出す。
仕方ない。私と紬さんは、キャトル君の肩から降りて追いかける。
ここの敵は野良っぽくないから、強そうな気がする。
敵が出るなら……だけど。
「2連続で敵も出ない場所の探索では、切れるぜ……」
ケインさんのリクエストに応え、ピノさんに嫌がらせをするように敵が現れた。
紬さんが魔幽霊にスペルジャマーの呪文を飛ばすが、どちらにも抵抗された。ケインさんが炎を纏い、なっちょさんは気を練る。トロさんはルーンを起動し、サーベルに魔法を纏わせた。
ピノさんは聖属性の矢を射て、魔幽霊1体の呪文を妨害するとともに、チクッとダメージを与える。私は、キャトル君をけしかけながら、攻撃が通れと祈る。
うん……両手は通る、尻尾は通らない。
霊体相手だと魔化した武器しか、ダメージが通らないらしい。
これは、ゴーレムの尻尾は、再生しない可能性も有るね。
なんて冷静に言ってる場合じゃない。
呪文を完成した魔幽霊のブリザードが、みんなを襲う!
よしっ。キャトル君の魔法耐性も、けっこう高そう。とはいえ、炎属性であるサラマンダーのケインさん以外は、私含めて、かなり食らった。
まずはヒールレインで全員回復……良かった、サラマンダーにはダメージになるような、意地悪仕様ではないね。
紬さんはここぞと、ファイアピラーで魔幽霊1体を確実に屠る。躍りかかるように、ケインさんがもう1体を唐竹割り。
魔法を使うのを潰せば、あとはじっくりと白兵戦で倒せる。
呪文使いは厄介だね。
みんなポーションで、HPを回復しておく。
「あんまり長居をすると、ポーションを浪費しちゃいそう」
苦そうに一気飲みしながら、ピノさん。
確実に幽霊城と解り、腰が引け気味だ。
「虱潰しにして、アイテムや情報を取り逃がさないようにしたいけど……」
「一気に抜けようとするなら、目指すは謁見の間か」
正門から入ってきたなら、朽ちた城でも謁見の間がどのあたりにあるかは見当がつく。大概は迎え入れた入口から、真っ直ぐに有るものね。
「ただ、この城は上がぶっ壊れていて、平屋っぽいんだよなぁ」
「逆に、地下に何か有りそうといえば、有りそうな……」
まだ、中庭に入ったに過ぎない。
お城は半ば瓦礫になりかけていて、眼の前に聳え立つ……と言うか、ぎりぎり建っている。
「……中に入ってから、考えましょうか?」
トロさんの声に頷く。
このお城、どこまで入れるのかが解らないから。
「あ……」
正面の扉を開いて、頭を抱えた。
謁見の間に向かうであろう広い廊下が、瓦礫に埋まってしまって進めない。
仰いだ天に、お月様が綺麗だよ……。はは……天井も抜け落ちてる。
月が明るくて、灯りがいらないのは助かるね。
途中に出てきた連中も、魔幽霊の属性が解ってしまえば、わざわざ紬さんの魔力を使う程の事でもない。……よほどの団体さんで来ない限りは。
地下への階段を見つけて、仕方がないので灯りを準備する。
1階の床は壊れてないから、今度は月明かりはない。
「何だか幽霊が出そうな雰囲気……」
「さっきから、何匹倒してると思ってる?」
「そういう敵じゃなくて、NPC的な喋る奴! こういう雰囲気苦手だよ……」
ピノさんが嫌がりそうな、本当に何か出そうな雰囲気だ。
蒸し暑い地域なのに石壁が冷えているせいか、妙に生暖かい。土台工事はしっかりしているのか、不気味に回廊がきちんとしてるんだよ。
増してここは、お誂え向きの……。
「地下牢っぽいな……」
「舞台もそれっぽいし、本当に何か出そうだ」
「やめてよ……デリカシーのないオジさんは嫌いだよ……」
うん……珍しくピノさんの憎まれ口も、語尾が震えてる。
牢屋は6個。
見た目は空室なんだけど、一応全部入って調べてみないとね。
「結局6連戦して、何も無し?」
怖がってた人が、不満の声を上げる。
幽霊系では、ドロップアイテムも無いし、本当に戦った経験値だけ。
「幽霊も出ないし、昼間に来るのが正解なのか?」
舌打ちをしながら牢を出る。
戻ろうとしたら……。
眼の前に、青い顔したお爺さんが浮いていた!
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