13 護衛してくれますか?
「なれました! レベル4です!」
華やいだチュウミンさんの報告は、私が水晶たちを磨いている途中にもたらされた。
おぉ……と工房は歓声に包まれる。けど、レントさんとベルの二人が複雑な顔をしてしまうのは、仕方のない所。私の指示で、チュウミンさんを先行させちゃったものね。
それぞれギルドの代表として、工房に参加しているだけに、意地だってある。
まだレベル2の修行中プレイヤーたちが、もう1レベル上がるまでは我慢してもらわないと、前線にジュエリーを届けられないんだ。
予め、一歩先だったチュウミンさんを先行させたのは、仕方の無いこと。
そう自分に言い聞かせる。
やっぱり、こういう人間関係って、私には向いてないよ。
「チュウミンさんがレベル4になりました。ムーンストーンと、アクアマリンの採掘が出来るようになりました」
定時連絡でそう報告し、ギルド『エコーズ』から護衛を派遣してもらう。
大丈夫だとは思うけど、ジュエラーたちは陣営の宝と、過保護なくらいに坑道行きの護衛は必携とされている。……主に私のせいで。
ワープ石のムーンストーンは、使い捨ての上、出番が多いからストックしておけないんだよ。ジュエラーの一番の問題点は、採掘もジュエラーレベルに関係すること。
今までは、ムーンストーンやアクアマリンの採掘も、加工も、次のレベルへの研究も全部、私一人にしか出来なかった。
採掘、加工をチュウミンさんに任せられるようになるのは、意外に大きいのです。
……これで私は、研究開発に専念できる。
「やったな、チュウミン!」
「あ、リックたちが来てくれたんだ」
『エコーズ』から派遣されてきたのは、チュウミンさん馴染みのパーティーらしい。
サラマンダーのリックさんと、ローンのディノさんを前衛に、ニンフのカレンさん、ウンディーネの星月夜さんのパーティ。
チュウミンさんは中衛で斥候役らしい。……あ、ローンっていうのは、見た目は普通の人間ですけど、アザラシ変化できる精霊さんです。なぜ、アザラシ? と思うけど、そういうものだから仕方ないらしい。……残念精霊?
「俺達は前線に戻らずに、こっちに駐屯して構わないとさ」
「ええっ? 戦力外通告をされたの?」
「違うって! チュウミンにいちいち呼ばれて行き来するのも時間の無駄だから、こっちの自衛がてら駐屯して、一緒に生産スキルを磨こうって話さ」
「本当にぃ?」
仲が良さそうで微笑ましい。
確かに護衛チームが駐屯してくれると、小回りが効くようになるかも。
私としても、良い実験台が出来て嬉しい……むふふ。戦闘メインの人がいないと、ステータス変化が分かりづらいからね。
ご挨拶してから、早速一緒に坑道に向かう。
周辺が草原から密林に変わっただけで、ルートとかは変わっていないんだとか。
飛びトカゲが出たので、今日は積極的に攻撃参加。
チュウミンさんに珍しがられた上に、同じウンディーネ仲間の雪月花さんに驚かれる。
「え? ……サクヤさんのウォーターカッターって妙に細くないですか?」
「もっと細くしたいの。できれば1ミリ幅以下にしたいんだ。今のレベルだとこれが限界っぽいから、ちょっと頑張る」
「何でまたそんな、マニアックなことを……」
「宝石のカットに使えないかと思って……。今扱ってるアクアマリンとかは硬度7だけど、いずれ出てくるだろうルビーは硬度9で、ダイヤモンドに至っては硬度10もあるんだよ? 磨くのはともかく、カットくらいは魔法を使えないと、加工している間に征服戦が終わっちゃうもん」
「確かに! 私は魔法を使えないよ……」
チュウミンさんが頭を抱えた。
器用さに振った職業って斥候がメインになるから、生産職……それも細工系だと斥候兼任が多いんだ。でも、リアルの中世の職人さんはダイヤモンド1個を仕上げるのに1年かかったとかいう話を聞くから……ずっと考えてたんだよ。
だから私は、杖でなく、タクトで魔法を使ってるの。
リアルのウォーターカッターという機械は宝石も切れるそうだから、同じ働きの魔法の方でも出来るんじゃないかと踏んでます。
目指せ、切断幅1ミリアンダー!
「料理はカレンと被っているから、私もジュエラーを目指してみようかな?」
「
何よりの助けと、チュウミンさんが雪月華さんと抱き合ってる。
がんばれー。ついでにどのくらいのレベルになれば1ミリアンダーの切り幅で、ウォーターカッターを使えるようになるのか、教えてくれると嬉しいな。
レベルを上げないと、加工途中でMPが尽きそうだから、レベル上げは必至だろうし……。世の中、うまくいかない。
山道で、久しぶりに戦闘レベルが上がって11になった。
私としては喜んでいたのだけど、まだまだへっぽこらしい。まーね。戦闘ばかりやってる人たちには適うはずもない。
宝石カットに必要なレベルってどのくらいだろう?
とりあえずは、そこまでを目指そう。
ちょっと試したいことがあるから、金属坑道で金と銀を余分に拾っておく。
宝石坑道で、しっかりチュウミンさんがムーンストーンやアクアマリンを掘り出せることを確認。
……良い笑顔だなぁ。
これで私は安心して、実験に専念できるよ。
水晶の方はまたお預けにして、カー君の所……宝石工房から蝋をいっぱい買ってくる。
そして、懐かしの設計機に向かって、ベジェ曲線をホイホイっと。
大雑把にオーバルの石、縦14ミリの横11ミリ経くらいの石の乗るシンプルな指輪の原型を設計して万能加工機に……楽勝。
ただし、今度のは蝋製だ。湯口付きのそれを20個くらい作る。
そしてついでに、高さ20センチくらいの自立できる円錐を作ってと……。
その蝋の円錐に、クリスマスツリーのように指輪の型をくっつけてゆく。
さすがにその頃になると、「何やってるんだ?」とみんなの注目を浴びてしまう。ちょっと恥ずかしい。
いろいろ調べたんだけど……。
リアルのジュエリー作りって、量産品は蝋で原型を作って、その周りを石膏で固めてから蝋を溶かし、石膏型を焼き固めて、蝋の溶けた後に金属を流し込んで鋳物を作るらしい。
現実にあるような便利な電気炉は無いけれど、この世界には魔法のサムシングがある!
この世界風にアレンジしてみようと、チャレンジなのだよ。
成功すると、量産するような実用本位の物の金属部分作りは、かなり楽になるはず。
指輪型を飾ったツリーもどきを、謎の型剤の充填機にかける。今日は二つに割らない。
出来た型を……とりあえずはお料理用の薪のオーブンで加熱してみよう。
蝋が溶けて燃えちゃったら、熱々のまま持ち帰って、溶けた銀を流し込んじゃう。
ゆっくり、ゆっくり行き渡るようにね。
魔法のサムシングに賭けるけど、駄目なら加熱炉と、回転させて、遠心力で溶けた金属を行き渡らせる設備が必要だ。……その時は誰かに作ってもらうしか無い。
出来たら、水で冷やす! ウンディーネの名誉にかけて、水流くらいは操れないと。水蒸気が凄いよ! 工房内を蒸し暑くしてごめん!
この謎の型剤は、どうやったら壊せるんだろう?
あ、叩いたら壊せる。
ポコポコ叩いて型を崩してやると……ありがとう魔法のサムシング!
鋳物のクリスマスツリーっぽいものが出来てるよ。大成功!
水流を当てて、鋳物の表面から型材の破片を綺麗に流し取る。
糸鋸でギコギコやって、一つ一つを取り外して……。後は付ける石に合わせて削ったり、磨いたりでオーケー。
「わぁ……一気に指輪がいっぱい」
「こんな方法を考えてみた。……でも、ここは暑すぎて向かないかも」
当然ながら、汗だくである。
「一つ一つやるよりは、そっちの方が早そうです。蝋の型なら、手作業で細かい細工も加えられるかも知れないし」
「使う人のイニシャル入れたり、もっと複雑な型を手彫りしても同じ様に出来ますよね?」
リアルではジュエリー作りの教室で、手彫りで教えてるみたいだもん。
できれば、魔法で動く炉が欲しいかな。蝋を溶かす時の。
「それ、魔動機工房に注文してみます。作れるかも知れない」
何でも、腕の良い職人さんは、みんな里に残っているそうな。
それが出来たら、量産にまた一歩前進だね。
石磨きだけは、どうしようもないけど……。
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