45_定期考査で知る実力~The numbers of scores~

 真中が登校して最初に目に入ったのは、学校のピロティにできた人だかりだった――


「な、なんだこれ……」


 ざわざわとした声が響き、笑い声やため息が入り混じっている。


 その先には大型のディスプレイが並び、ゆっくりと自動スクロールされる文字列が視界に飛び込んできた。


『定期考査順位表』


 表示は複数に分かれており、ある画面には『成績上位30傑』、また別の画面には『学籍番号順』『学年成績順』と、それぞれ見出しが付けられている。


 視線のやり場に困りながらも、真中はごくりと喉を鳴らした。


「えっと……25-127……25-127……」


 呪文のように自分の学籍番号を唱えながら探していると、それは意外とあっさり見つかる。


「…………はぁ……」


 その番号の横、『順位』と記載されている欄には『132』と書かれていた。


「下から3番目かよ……」


 不幸中の幸いと言えば、最下位ではないことくらいだろう。ただ、『成績順』のディスプレイにだけ引かれたを超えるために抜かさなければならない人数を数え始めると、真中にとっては富士山を登りきる方が簡単にさえ思えた。


「順位表が出るなんて時代遅れだよな? ……ハジメ?」


 飄々ひょうひょうと言う比和に言いたいことはあるが、それよりも真中はショックの方が大きい。


「いや、お前はどうだったんだ?」


「わははっ! 張った山が大当たりしてな、赤点回避でござるよ‼」


 笑い声といい語尾といい――テストから解放されて少しおかしくなったのか、比和はいつもと様子が違う。


「お前ってそんなキャラだったっけ……?」


「『キャラ』とか言うなって、俺だってたまにはこうやってはっちゃけたいんだって」


 それでもワハハ――といつもとは違う笑い方をしていると、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえてきた。


「んっんんっ! ……比和、ここはお世辞にも広いとは言えない場所だ。それに、赤点を回避したとはいえギリギリだったみたいじゃないか」


「まぁまぁ、そういうこずえっちは?」


 そう聞いてきた比和に対して、青山は鼻で笑う。


「ふん、お前と一緒にするな。学年三十傑に載ってるさ」


「……まじかぁ……」


 当然、と言わんばかりの青山の反応に、比和は空を仰いだ。


「ハジメの勉強を見ながらその成績って控えめに言ってヤバくね?」


「私はお前の語彙力のなさに『ヤバい』と思ってしまうがな」


 青山の容赦のない一言に流石の比和も効いたようで、「ぐはっ‼」と言いながら胸を抑え、体を折り曲げた。


「容赦ねぇなぁこずえっちは」


 比和のややオーバーともいえるリアクションを見て、少しだけ真中は心にゆとりを取り戻せた。だからと言って、青山の口撃が止むことはなかったが……


「いつも放課後に『雑誌』を持ち込んで遊んでいるからそうなるんだろ? 自業自得だ。それに真中も真中だ。いくら高校になって勉強が難しくなったとはいえ、まだまだ中学校からの延長レベルだぞ? このままだったら近い将来赤点を取って落第することは目に見えているからな?」


「それはまぁそうなんだけど……」


 青山の言うことはもっともだ。ただ、今回の試験には自分ではそこそこ勉強をしていどんだつもりだ。それでこの点数だったのだから、自分がいかに勉強が苦手化を痛感させられたともいえる。


「勉強会は今日の放課後からまた再開するからな」


 落ち込んでいる真中をよそに、青山はそれだけ言うと教室へと向かっていく。


「うへぇ……今日からまたやるのかよ……」


「当たり前だ。湯は火をくべなければ冷めてしまうからな」


「……どいうこと?」


 青山の比喩的な表現に戸惑う真中だったが、比和は肩をポンと叩いて歩きだしながら教えてくれた。


「『続けなければ意味がない』ってことさ。ほら、そろそろ予鈴が鳴るぜ、このまま立ってたらまた青山『先生』に叱られちまう」


「比和!!」


 彼の茶化しを青山は一言で制し、比和は比和で、彼女の一言で察したようだ。「へいへーい」と両手を上げて興産のポーズをして、二人は先に教室へ歩き始めていった。


「あ、ちょ――待ってくれって!」


 完全においていかれた真中は慌てて二人の後を追いかけ、すぐ後ろに付いた。


 そして何となく話がしにくいと思いながらも、三人は青山を先頭とする形で列になって歩みを進め、予冷が鳴ったのは教室についたとほぼ同時のことだった。


「相変わらずこずえっちの体内時計はすげぇな」


「毎日同じように生活していれば、この程度どうと言うことはない。それよりも、さっさと席について準備しろ。あと10分でホームルームが始まるぞ」


 青山はそう言って席に着くが、そういえば彼女は順位表を見に来たときは既にカバンを持っていなかった。と言うことは、一度教室に着き、準備を整えてから見に来ていたということらしい。


「……まじか~……」


 超が付くほどの優等生と、自分の圧倒的な違いを見せつけられ、真中が肩を落とすのとほぼ同時に、後ろから教員の佐藤が教室のドアを開けた。

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