調子合わせ上手なシャンプーマン

わたしクラスのシャンプーマンは、話を合わせる能力にも長けているじゃないですかぁ。(知らんがな)


 お客様の言い間違えってどうします?あっ……皆さんの中には接客業じゃない人も多いですよね。


 そうですね……例えば、上司とか……知ってる人だけど、そんなに仲良くもない人とか。


 訂正しますか?それ、間違ってるよって……わたしは訂正出来ない人間です。なので一生懸命に話を合わせるのです。


「昨日大変だったのよ〜」


「そうなんですか〜?何が大変だったんですか(可愛いらしい声)?」


「それがね、道路の真ん中で車が急に動かなくなってね。ボンネットから煙が出てきたの。もうパニックよ」


「えぇ!」

 

 わたしは、はっきり言って車の知識はゼロに近い。アニメや漫画、美容の知識に膨大な情報量をもっていかれているので、海馬かいばには機械系の知識が入る隙間は無い。


 機械系の知識は、もっぱらモビルスーツとエヴァぐらいだろう。


「そんな時ってどうするんですか?(可愛いらしい声)」


「最初はパニックだったけど、【ジェフ】を呼んだから、なんとかなったのよ」


「へぇ〜」

 

 【ジェフ】さんかぁ……やっぱ、こういう時、男の人って頼りになるよねぇ〜。機械に強いとそれだけで3割増しでカッコよく見えるし。


 それにしても、⚪︎⚪︎さん、外国人の知り合いがいるなんてカッコいい!


「⚪︎⚪︎様、【ジェフさん】みたいな人がいて、羨ましいです!わたしにも、そんな人がいたらなぁ」


「えぇ?何それ。あなた可愛いわね。【ジェフ】を人間みたいに言って!あなたも会員になったらいいじゃない。安心よ」


 は?……人間じゃない?【ジェフ】……会員?……ジャフ!【JAF】!


 なんてこった。こちらのお客様、ジャフをジェフだと呼んでいる。「A」を「ェ」と読んでいる……


 そうだった、この間も好きな映画の話のとき、【パイレーツ・オブ・カリビアン】のことを【パイレーツ・オビ・カブリアン】と言っていた。


 まだある……【バイオハザード】のことを【バイオ・ザ・バード】とも……


 あの時は大変だった。間違いを正さずに会話するため「パイレーツ・オブ・カリビアン」のことを、わたしは「ジョニー・デップ」と言って会話してたし、「バイオハザード」のことを「バイオ」と略して頑張った。


「バイオハザード」のことを、「バイオ」って面白いですよねぇ……なんて、ちょっと恥ずかしい略し方をしたことは、今でもわたしの記憶に焼きついている。


「バイオ・ザ・バード」なんて言いたくない。でも「バイオハザード」とも言えない。主演の女優さんの名前はちょっと忘れた……だったら……「バイオ」で通すしかない!……苦渋の決断……。


 そして今回、わたしは新しい階段を登るだろう。だが覚悟は出来た。わたしに、間違いを訂正する胆力は無いのだから……


「ジェフって頼りになりますね!」


 登った……わたしは……乗っかったのだ……。


 これから、わたしは【JAF】を【ジェフ】と呼ぶだろう。

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