第一章 第3話
③
さて魔法の訓練を始めよう。
まずは魔力の根源があるとされる丹田の辺りに魔力を感じ、感じた魔力を体全体に巡らせる基礎訓練。
地味だが魔力量と濃度を少しずつだが高めることが出来る。
魔力量が多ければ発動する魔法の持続時間、発動回数が増え、濃度が高ければ一度の魔法に要する魔力量が減り、威力が高まる。
俺はこの基礎訓練を”瞑想”と呼んでいる。
この世界、魔法について全貌は解明されてないものの、使える人はかなり使いこなしているようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法との出会い、あれは初等王立学校入学初日だった。
入学式の様な集まりだった。
講堂に集まった新入生やその父兄を前に、白いローブを身に纏った白髪白髭長耳の老人が徐に語りだした。
「みんな、入学おめでとう。儂は校長のマーリン。これから大事なことを話すから、静かに聞いて欲しい。初等王立学校の最初の儀式じゃ。痛くも痒くもない儀式じゃが、儀式を終えた後みんなは一つの能力を持つことになる。ここにいる全ての者がじゃ。そう、現在の自分の能力を知ることが出来るようになるのじゃ。アドニス王国建国前はどこの家でも子供に伝えることが出来た能力じゃが、廃れて久しい能力だ。たが、ウィリアムⅡ・オブ・アドニス王がアドニス大陸を統一した後は、初等学校入学時に必ず伝えることになっている。この能力には二つの約束がある。一つ、この能力は自分の能力のみ知ることが出来る。一つ、他人の能力を同意なく聞き出すのは犯罪だ。決して他人の能力を力づくで聞き出すようなことはするなよ。では行くぞ、“汝の真の姿は汝のみぞ知る。その深淵を覗く力を授けよう。アドステータスオープン”」
淡い光に講堂全体が包まれる。新入学生だけでなくその家族もだ。俺は下腹がじんわりと熱くなったように感じた。
「これで、皆が“ステータスオープン”の魔法が使えるようになったはずじゃ。これは儂からの入学祝でもあり、皆のこれからの人生を切り開く知恵となるだろう。自分のステータスを大事に育てよ。豊かな人生となるだろう。そして文武に励め。新たなスキルも身に着けることが出来る。そして得た力は自分の為ではなく、人の為にこそその力を奮え。決して自分の為だけに使ってはならん。以上だ」
入学式後は1クラス50人、10クラスに分かれて教室に別れ、クラス担当教師から明日からの授業内容、学校の大事な決まり事などの説明を受け、最後にステータスオープンの使い方と、マーリン校長も話していた、使用上の注意を聞き、全員でステータスオープンを使った。
授かった時と違いエフェクトは何もない。
ただ目の前にPC画面が現れる感じだ。
ナギ・ハワード(6)
職業:初等王立学校生
特殊スキル:DEXTERITY
スキル:異世界言語
教室内が静かに動揺している。
俺も動揺している。
ものすごく俺のステータスについて誰かに確認したい。
特に最終行についてだ。
だが、自分のステータスについて他人と語るのは慎重に慎重を重ねる必要がある。
家に帰って父さんに相談することにした。
入学式の夜、夕食後にウィリアム父さんにステータスについて相談した。
シャロット母さんとチャールズ爺さんもなぜか同席だった。
長兄のリチャードと次兄のヘンリー、姉のエリザベスも同席だ。
俺のステータスについて話すとみんなのニコニコ顔が凍り付いた。
通常、入学時のステータスは名前と年齢が現れるのみで、極稀に幼少から特化して経験を積んだ子供に剣術とか身体強化等のスキルが表示されるが、特殊スキルとか、DEXTERITYなんて聞いたこともないという。
異世界言語のスキルは想像が付いたようだが内容不明。
改めて俺のステータスは他言無用だということになった。
ただ、DEXTERITYは器用という意味があるのでモノ作りとか武術や魔術関連のスキルを覚えやすい可能性があるかも、とチャールズ爺さんが推測してくれ、俺は今後のスキル取得に期待した。
そうそう、マーリン校長のアドステータスオープンを受けた時に、下腹がじんわりと熱くなったように感じた事を伝えると、それは魔法を発動する丹田が反応したという見解を得た。
リチャード兄、ヘンリー次兄、エリザベス姉も感じていたようだ。魔法を発動する時は丹田から魔力を練るらしい。
その感覚を磨き続けた先に魔術の発動があるとの事。
それは魔法取得に関する具体的なアドバイスだった。
ちなみにマーリン校長が唱えた“アドステータスオープン”の呪文は“#$%#”!“(&%$!!)(‘&%$#”!89776689“と誰も意味の分からない言葉だったようだ。
異世界言語が仕事をしていると初めて納得できた。
ここは剣と魔法の世界。初等学校の授業でも武術と魔法の時間はあった。
使えるものは使う主義の俺は淡々と、魔法の基礎鍛錬を行う事にした。
魔法スキルの取得には練習しないとたどり着けない。
DEXTERITYがうまく働いてくれるのでは、との直感が俺を動かす。
出来ることは何でもチャレンジだ。
まぁ前世の合気道とか勉強とかでコツコツ地味に努力することは嫌いじゃない。
この世界でも努力は必ず実を結ぶはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
入社一日目の教養=魔法鍛錬の時間を終えると夕飯だ。
ウィリアム父さん、シャロット母さん、チャールズ爺さんと食卓を囲む。
リチャード長兄は商船で海の上、ヘンリー兄も別の船で海の上、エリザベス姉は王都にある高等王立学校で寮生活中の為不在だ。
特記すると高等王立学校は初等学校の成績優秀者を集めて内政・外交・軍事を勉強するアドニス王国最高学府だ。
卒業生は王国の官吏や国軍士官等の職に就くことになるエリート養成学校なのだ。
エリザベス姉はアドニス王国の同年代から選抜された精鋭200人のうちの一人だ。
ハワード家としても自由商人を標榜しているが、家族からエリート養成学校入学者を出したので面目約如といったところだ。
俺の進学?高等王立学校へ行くよりも、ハワード商会の一員になって、恩を返すことを優先に考えてたので就職以外は眼中になかったよ。
まぁ、入学から卒業まで毎年主席だったので、マーリン校長からは何度も進学を薦められたがきっぱりと断った。
両親も俺の気持ちを知っていたので自由に選べと言ってくれたしね。
俺は、俺の道を進む。一人前の商船員となり、父さんと母さん、ハワード商会に恩返しをするのだ。
この世界を楽しみながら。
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