第9話 第一階第七号室~蟲を喰う者~
「一階もあと少しで終わりだ・・・。この部屋は何が待っているかな?」
沙月は第七号室の扉を開けた。するとそこには独特な形状をした植物が並んで生えていた。しかし普段見る植物とは何かが違う。その植物には全て牙が生えており、何かを狙っているようだった。
「でかい・・・。人間くらいの背の高さだ・・・。それにドクンドクンと音が鳴っている・・・。植物なのに、動物みたいだ。て、うわっ・・・ハエだ!!あっち行け!!」
小さなハエに驚く沙月。それと同時にハエがその植物に誘われているのか一直線に植物の元へと向かっていった。それを眺めていた沙月だったが、次の瞬間ハエが植物に喰われて消え失せた。
「わっ、食虫植物だったんだ・・・。でもこんなところに霊なんているのかな?いやいるはずだ。周りに血痕が残っているし・・・。」
後ずさりする沙月。すると植物達が一斉に沙月の方を凝視する。どうやら動く物ならどんな物でも餌と認識するようだ。
「まさか私を喰らう気・・・!?」
茎を伸ばし一気に沙月の間合いに入る無数の牙達。まずいと思った沙月はなんとか避けようとするが、間に合う訳がない。それは速すぎた。
「痛った!!・・・くない?もしかしてこの植物そのものが霊!?」
沙月は驚く。どうやら沙月の勘は当たっていたようだ。この部屋にいる全ての植物の中枢に人間の心臓が使われており、その血を糧とし狂暴化していたのだ。根本付近には人間の骨が散らばっている。養分として使われたのだろう。可哀想な話だ。
「これは・・・植物も人間も可哀想だ・・・。封印するのも違うと思うし、どうしようか・・・。」
沙月は考え込む。目の前に存在している生物兵器に戸惑い、頭を傾げる。すると早苗の言っていた事を思いだした。それは「どんな物にも命が宿る」というもの。動物や植物は勿論、自然や人工的な物であっても魂はあり続ける。たとえ人間が手放したとしても。その言葉を思い出した沙月はこの可哀想な植物に優しく接してあげる事に決めた。
「ねえ、君達はどうしてそうなってしまったの?敵国の実験?それとも自らそうなりたいと思ったの?」
すると威嚇していた植物の葉から水が溢れ出た。泣いているのだろうか。しょんぼりとして襲う意思を見せてこない。
「大変だったよね。人間のせいでこんな姿に変えさせられて。是非私に想いを馳せて欲しい。辛い過去の事を。」
植物を優しく包み込むように抱きしめ、牙に頭をつける沙月。すると植物の中に存在する心臓が直接脳内に語りかけてきた。
『僕、怖いんだ。植物なのに無理矢理遺伝子を人の手によって変えさせられて、人間を喰らえという命令をされた。本来虫を喰らって生きるものだというのに、こんな弱い植物でさえ、人間はこき使うんだ。己の中に眠る鬼によって。』
「そうか、それは辛かったね。教えてくれてありがとう。・・・私は霊能力者なの。お化けが苦手なのに、試練の為にここに来ている。不思議だよね。でも君達を助けたい。だから良かったら私の力で成仏しない?勿論、君達の過去をかき換えてあげるから辛くないよ。」
『どういう事?過去をかき換えるって。そんな事出来る訳・・・。』
「出来るんだよね。実は私、最強の霊能力者みたいなの。君達の苦しい過去を消す事だって出来る。だから怖がらないで。痛くないから。」
『・・・わかった。ありがとう・・・その、最後に名前を教えてほしいな。』
「沙月。神条沙月よ。君達のように弱い霊達を助ける役目を託された者。植物本来の生き方を教えてあげる。今から準備に取り掛かるから待っていて!」
『ありがとう沙月さん。・・・お願いします。』
沙月は植物から頭を離し、遺伝子組み換えを余儀なくされた可哀想な植物達に右手を翳す。そして霊鎮の術を唱えた。
「神よ。私に力を授けてください。この哀れな植物に明るい未来を!霊鎮の術その8・操神の震威。」
まず沙月は操神の震威を唱えた。これにより、植物達に刻み込まれた恐ろしい過去を強制的にかき換え、安心を与えた。
「その次。霊鎮の術その7・清光の微笑み。さぁ、皆!天界へと昇って!!」
その部屋が青白い光に包まれる。そして部屋にいた哀れな霊の全てが消えてなくなった。
・・・
「植物にさえ恐怖を与えるなんて、どれだけ人間は残酷な生き物なんだ。・・・そして私が生まれた理由が分かった。ただ霊を懲らしめる訳ではなくて、真摯にその霊の想いを受け止めた上で安らかに天界へ送りだす為に生まれてきたのね。勿論母さんの言う通りにするけど、今みたいに優しく接するのも大切だよね!!」
沙月はこのマンションに入ってから成長し続けていた。勿論霊が怖いという感情は残り続けていたが。
そして第七号室の部屋を抜け、第八号室の扉を開ける。
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