第7話 第一階第五号室~悲痛な叫び~

 第四号室で2時間程休息を取った沙月は体力が戻ったので次の部屋へと向かう事にした。

 

 「次はどんなのが来るんだろう・・・。気持ち悪いのはもう沢山だよ・・・。」

 

 沙月は次の部屋、第五号室のドアノブに手をかける。すると突然その部屋の中から沢山の人の叫び声、いや悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

 「ひっ!ほんとやめてよ・・・。」

 

 そう呟きながら扉を開けると部屋の中には古びたロッカーが10個ほど並んでおり、その下には大量の血痕が残っていた。

 

 「うわ、もしかして拷問に使っていたの?この部屋は・・・。」

 

 沙月は恐る恐るロッカーの扉を開ける。それと同時に大量の人骨が出てきた。それに驚いた沙月は膝の力が抜け、その場にへたり込む。しかしよく見てみるとどの骨も直径2センチメートルほどの穴が空いており、なにか不自然だと感じた沙月は人骨をひたすら掻きだし、ロッカーの中を確認してみた。

 

 「えっ・・・これって・・・。」

 

 そのロッカーはまともな物ではなかった。沙月は全てのロッカーの中を覗いてみたがどれも太い棘が生えていた。鉄の処女「アイアンメイデン」のような拷問器具に成り変わっていたのだ。

 

 「嘘でしょ・・・。こんなの助かるわけがない・・・。それにこの量の人骨・・・。全部このロッカーで殺された人達の物だ・・・。」

 

 沙月はあまりの惨状に気が引く。この島では強制労働も拷問も殺人も起こっていた事を改めて実感した。するとロッカーの中から沢山の人達の悲鳴が聞こえてきた。

 

 『助けてくれ、痛い、痛いよ・・・。言いつけを守って働いたのにこんな仕打ちはないよ・・・。』

 

 『やめてーーーーー!!ギャァァァァ!!』

 

 耳を突き刺す断末魔が部屋中を掻きまわる。その強烈な音圧に耐えきれなかった沙月は意識が途絶えた。

 

・・・

 

 『沙月、沙月・・・!!!!』

 

 「はっ!!・・・母さんか、私気を失っていたみたい・・・。」

 

 早苗の着信のお陰で気を取り戻した沙月。

 

 『悪霊の手に冒されなくてよかった。何度も電話をかけてよかったよ。今いる部屋は歴代の神条家が殺された場所でもあるの。気を失ったあとそのロッカーに引きずり込まれて殺された。だから沙月になにも害が無くて良かったわ。』

 

 早苗は沙月の身になにも害が及んでいなくて安堵していた。しかし、このままではこの部屋を踏破する事が出来ない。なんとしてでも踏破しなければならないのだ。

 

 「心配してくれてありがとう、母さん。その・・・私に考えがあるんだ。霊鎮の術を連続して撃ちたいなと思って。」

 

 『それは駄目!!厳しく言いつけたでしょ!そんな事をしたら全身から血が噴きでて死ぬって!!』

 

 「でも、・・・でも!こんな可哀想な死に方をした霊達がこの部屋にいる!そんな可哀想な霊を私は助けたい!だから今はわがままになりたい!!」

 

 沙月はこのマンションに入ってから、霊との接し方を分かってきていた。悪霊になった理由も戦争が原因だと知った。だから恐怖をおし殺し、助けたいと自身の母親に申しでたのだ。

 

 『・・・分かった。沙月がそうしたいのならその意見を尊重する。ただその場合強力な術を撃つしかない。霊を成仏させる・清光の微笑みと、強制操作する・操神の震威を放ちなさい。貴方なら出来ると信じる。』

 

 「了解、母さん!!霊よ。安らかに、そして次の世代へと生まれ変われるように・・・未練よ、無くなれ!!霊鎮の術その8・操神の震威!!」

 

 沙月はまず操神の震威をロッカーに向けて放った。すると苦しんでいた霊達は沙月の強烈な術によって暗く辛い過去の事を消去され,

安らかな表情を浮かべるようになった。

 

 「今だ!そのまま天へと帰って!!霊鎮の術その7・清光の微笑み。」

 

 高出力の術をロッカーに向けて放つ。するとその部屋にいた霊達は沙月に無言の挨拶をしながら、天へと帰っていき、部屋のロッカー、人骨、血痕が消え失せ、綺麗な部屋へと生まれ変わった。


・・・


 『沙月、凄いわ。私はその部屋を封印する事でしか呪いを打ち止めなかった。それなのに、まさか霊鎮の術の連続放出で霊達を静かに浄化してしまうなんて・・・。貴方は神に愛されているのね。』


 「そんな事ないよ。私は可哀想な霊に優しくありたいだけ。だからこそ危険なカケに勝てた。それだけだよ。」


 沙月は決意を固めた言葉を早苗に向かって言った。その瞬間早苗は「沙月が成長するきっかけをこの試練で作れて良かった」と安堵し、笑い始めた。


 「えぇ!?そこ笑うところ!?」


 『ごめんごめん。でも沙月の成長を電話越しに見る事が出来て嬉しいよ。さぁ、次の部屋へと向かって!!』


 「わかっ・・・ひっ!虫だ!あっち行け!!」


 『ははは!その虫嫌いな所も直さないとね!私も頑張るから沙月も頑張って!じゃあね!』


 そして母親との通話が終わった。


 「はぁ、酷い母さんだな・・・。でも、母さんがいたからこそここまで頑張れた。まだ先は長いけど頑張るぞ!」


 沙月は拳を握りしめ、部屋を出て次の部屋第六号室の扉を開けた。

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