短編小話「メジェドさまのグルメ紀行」
メジェドのグルメ紀行 ―序章―
「メジェド、太陽の国を発つ」
灼熱の太陽が砂漠を照らしていた。
白布をまとい、無言で立つ神の姿。――メジェド。
古の神殿に響く声。
「メジェド、何処へ行くの?」
声の主はホルス。空の王は黄金の瞳を細める。
メジェドは静かに答えた。
(食。)
「……食?」
(私は気づいた。
供物を受け取るだけでは、真の味は知れぬ。
心臓も、血も、確かに力に満ちている。
だが、“うまい”とは……何だ?)
ホルスは一瞬、言葉を失った。
彼の背後で、アヌビスが犬の耳をぴくりと動かす。
「まさか……君、世界の料理を食べ歩くつもり?」
メジェドはこくりと頷いた。
布の奥で、何かがきらりと光った気がした。
(北の海に魚がいると聞く。
東の島には、“米”という白い粒の宝があるらしい。
我はそれを味わい、記録しよう。
すべての神々に伝えるために。)
ホルスはため息をつく。
「……まったく、君は。」
だがその目は、どこか誇らしげでもあった。
風が吹く。
白布が砂を巻き上げ、太陽の光を反射する。
その姿はまるで――“白き彗星”。
こうして、
死の国の神にして最も静かなグルメ神、メジェドの旅は始まった。
「メジェド〜!迷子になったらお空に声をかけるんだぞ〜!父さんが迎えに行くからな〜!」
太陽の神ラーがハンカチを振りながら見送っていた。
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