第48話 決意
少し時間は遡る。
教室の扉を開けたのは——瑞希だった。
「……シンクロニシティは出来ない、ってことなのね」
「残念ながら、ね。まあ、そんなことをしてもしなくても勝率が大幅に変わるとは考えづらいし、この辺りは致し方ないとして諦めるしかないと思うけれど?」
教室には既に先客が居た。
オーディールとともにやってきた少女——ベータだ。
「ベータ……。既に居たのなら、声を掛けてくれれば良かったのに?」
「別に声を掛けようが掛けまいがどうでも良いことでしょう? 何故なら、ここはあなたしか居ない空間なのだから」
ベータは立ち上がり、黒板の前に立つ。
正確には、黒板の前にある教壇の上に。
「さて、これからどうするつもり?」
ベータの言葉に瑞希は頷いた。
「どうするつもり、って……。そう言われても、『扉』が見つからない限りは倒しようがないというか……」
「『扉』は海の中にあるのではなくて?」
ベータの言葉を聞いて、瑞希は目を丸くした。
「何……ですって?」
「だから、『扉』は海中にあるのでしょう。渦巻きが出来ているのもその証左になっている。……であれば、そこに向かえば良いのでは? そこを叩くことが出来れば、確実に……襲撃者を撃退することが出来る。素人が見てもそうアイディアを出せるのだけれど?」
「そうは言うけれど……」
そんな時——何処かからバイブレーションの音が聞こえた。
それは良く馴染みのある、スマートフォンの音のようにも感じられた。
「……どうしてここにスマートフォンが?」
「パイロット同士の情報伝達手段、そのうちの一つ。厳密にはこの世界においてそう定義されているだけで、仮にこのオーディールが着地した世界の主流通信手段が別であれば、それに取って代わる。ただ、それだけのことです」
ベータはそう言うとポケットからスマートフォンを取り出した。
「……まさかこの空間でもスマートフォンを触ることになろうとはね」
「何か不満でも?」
「いいや、全く。不満も不安も何もないよ。ただあるのは、この機械がこの世界に——この空間にあることの安心感だけかな」
「そういう詩的な言い方をするのも悪くないだろうけれど……だからと言って物事が解決するわけでもないからね」
「そりゃあそれぐらい分かっていますとも」
ちょっとオーバーなリアクションを取りつつ、瑞希はスマートフォンを受け取った。
「誰に繋がっているか、確認しなくても?」
「不要でしょ。この空間に突如として現れたのだから、どこに繋がっているかだなんて、簡単な話。……高校生に四則演算をやらせるのと大差ないぐらいの難易度だと思うよ?」
そう言って、瑞希は耳元にスマートフォンを当てた。
◇◇◇
そして、時は現在に戻る。
「……まさかこの空間でもスマートフォンが使えるとはね」
『それはこっちのセリフだけれど? それとも何か言いたいことでもあるのかしら?』
「いや、全く……。というか、なんで突っかかってくるのかな。それだけでもやめてくれれば十分有難いのだけれどね?」
聡と瑞希の会話は、他愛もない会話から始まった。
最初から緊張感マックスで話を進めるよりかは、今の状態が全然良いだろう。
「……ところで、これからどうすれば良いのかな」
『はあ? それ、こっちに聞くこと? そっちから連絡をとってきたのだから、そっちこそ何か良いアイディアでも持ち合わせているのではなくて?』
「まさか! 申し訳ないけれど、何もアイディアなんてありゃしないよ。こっちは……アルファがいきなり出してきたからその手を取っただけに過ぎなくて」
『こちらも似たようなものよ……。え? ってことは、二人揃って全くのノーアイディアって訳? それはそれでどうなのかな、って思うけれど……』
「半分はお前のせいだろ。自業自得じゃないか」
聡はなぜか瑞希には強くやっかみを入れることが出来ていた。
瑞希もそれを聞いて不思議とは思わずに、けれど普通に対処するしかなかった。
『こんなところでギャーギャー言っても何も始まらないし、何も終わらない。……とにかく何か良いアイディアを』
「決めた」
唐突に。
唐突に聡がそう言って、瑞希は一瞬口篭ってしまった。
『えっ? 何よ、何を急に……』
「ここでああだこうだ言っても何も始まらない。それは間違いないよ。だったら行動するしかない——ぼく自身が、あの襲撃者の居る『扉』に直接向かわなければ話にならない。そうだろ?」
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